パソコンのゲームは、次々と新しいものが生まれる。新しいルールと新しいやり方が必要だ。資本主義も新しいゲームが始まっている。そこには新しいルールがあり、ここで勝ち抜くには、これまでと違う戦略が必要だと説くのがレスター・C・サローの「資本主義の未来」(TBSブリタニカ)という本だ。産業革命は、農業中心に営まれていた封建社会を新しい領主である資本家とその軍団が支配する産業資本社会に変えた。新しいゲームが開始したことを認識できなかった封建領主などは、没落せざるを得なかった。資本主義は、かつて恐竜が絶滅して哺乳類の世界が始まった平衡断絶の時代のように新しい段階に入っていると説く。
このような社会基盤が代わる理由は何であろうか。サローは、地質学のプレートテクトニクスの力のせめぎ合いからアプローチする。地球上を幾つかのプレートが覆っているが、このプレートの移動が大陸移動とひずみを造る。社会も同様だ。資本主義の要素であるプレートがゆっくりではあるがその基盤を動かし、やがて質的な変換をもたらす。共産主義の崩壊、資本社会から頭脳社会への変動、人口の増加と高齢化などがそのプレートであり、資本主義が生まれた時期から大きく動いているという。
この本は、内容もさることながらアプローチの手法にも牽かれる。私たちは、プレートのひしめき合いの中に生きる。仕事や家庭のプレートの中で我々の精神界プレートは、軋みを立てる。中・高校生などがいじめにより自殺したりするのは、そのプレートの厳しさの中に沈み込まれていくことを表している。そして、我々が如何にしてプレートに対処すべきかを問われているように思える。
私は、ある方から1冊、ある時は5冊と本を頂く。10冊をお贈り頂いた時は、家内ともども何が届いたのだろうかと、びっくりしてしまった。私は、この方にどのようにお返ししたら良いだろうかと考えた。結果は、今度は、私が感銘したりした本を、他の方々に頂いた本の数以上にお送りすることだと思った。「資本主義の未来」この本は、私が、知人に贈らせて頂いた本の一つである。
1998.5.2(土)静岡新聞夕刊搭載、後藤正治 記