月1回の判例研究会の第158回は、2025年10月30日開催され、判例時報2623~2627号から4判例が報告された。
改正前相続法の遺留分減殺により金銭債権が減殺された場合において、遺留分権利者が債務者に対して直接請求するためには債務者対抗要件の具備が必要であるとした事例(東京地判令和4年12月13日)については、受遺者から対抗要件具備の協力を取り付ける必要があることとなり困難が予想される結論だが、法改正によりこのような問題は生じなくなったことを確認した。
聴覚障害を有する11歳児童の死亡事故の逸失利益の算定に関し、未成年者の基礎収入として、一般に当該未成年者の諸々の能力の高低を個別的に問うことなく全労働者平均賃金を用いる以上は、顕著な妨げとなる事由が存在する場合に限って減額可能という枠組を提示し、当該児童の死亡当時の聴覚・就労可能年齢に至った頃の聴覚の見通し・障害者法制の整備やテクノロジーの発展の見通し等を考慮して、本件では顕著な妨げとなる事由がないと判断し、基礎収入を全労働者平均賃金の85%とした原審を覆して100%まで引き上げた事例(大阪高判令和7年1月20日)については、認定の基礎となった児童の状況や社会的情勢について如何なる立証活動を行ったかを推測して議論した。
17歳の被告が、原告の運営する通販サイトから転売禁止商品である人形を1万2100円で購入し、2週間後にメルカリで4万8400円で売却したことが転売禁止特約違反であるとして違約金20万円を請求した事例(東京地判令和5年8月24日)においては、人形の購入を未成年者取消で無かったことにして転売禁止違反も無かったことにすることは認められなかった。代金僅少であり、過去に同様の売買を繰り返した経過もあるため、人形の購入は「目的を定めないで処分を許した財産(≒お小遣い)の処分」に過ぎないとされたからである。しかし、違約金条項は、不意打ち的な内容であるとして、「信義則に反して相手方の利益を一方的に害する」内容の「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項」と認めて民法548条の2第2項により合意不成立とみなされた。決済フローの途中で転売禁止及び違約金条項に関する規定を表示し、最後までスクロールして「全て読み同意する」チェックを入れない限りOKボタンを押せない仕様にしていたにもかかわらず、不意打ちと評価されたのである。転売抑止は社会的要請もあり、いかなる方法であれば転売禁止条項に実効性を持たせられるかを検討した。
契約期間を約3年間とする基本契約を締結したが、約半年後には関係悪化し、もう今後は個別契約を発注しないと通告した場合において、受託者側に不測の損害が生じたとしてもリスクヘッジ条項を盛り込んでいない以上、発注停止は違法ではないとされた事例(東京地判令和6年4月22日)が紹介され、基本契約のリーガルチェックに関する意見交換を行った。

