第152回判例研究会

月1回の判例研究会の第152回は、2025年4月23日開催され、共同親権関連の法改正についてeラーニングを受講した。制度変更は多岐にわたり、親権者を定めない協議離婚、離婚後共同親権、親権者変更の要件改正、親権の共同行使が必要な事項を共同で決められないときの家庭裁判所の審判、監護の分掌、子の監護費用の先取特権、法定養育費、財産開示手続等における自動的な給与債権情報取得や債権差押命令の申立て、婚姻費用・養育費審判における収入資産情報開示命令(制裁は10万円以下の過料)、父母以外の親族と子の面会交流、親子交流の試行的実施、養子縁組・離縁と親権者変更、財産分与の除斥期間伸長、夫婦間契約取消権や精神病の離婚原因の削除が解説された。共同親権の意見が夫婦で対立する場合に、裁判所が共同親権と定めるようになるかどうかは実務の運用を注視する必要があること、共同親権の場合における学校や病院の適切な親権者対応の在り方、先取特権に基づく不意打ち的な債権差押への対抗手段などを議論した。

第150~151回判例研究会

月1回の判例研究会の第150回は、2025年2月25日開催され、判例時報2607~2610号から4判例が報告された。遺言により相続分がないものとされた相続人は遺留分侵害額を請求しても特別寄与料を負担しないとされた事例(最一小決令和5年10月26日)、特殊詐欺の受け子をした少年の詐欺の故意を認めた判断に重大な事実の誤認があるとして取り消された事例(東京高決令和5年9月15日)、弁護士の依頼者に対する報告義務の損害賠償責任が認められた事例(東京地判令和5年5月10日)、父が借入金をもとに収益物件を建築し、子に対し借入金を免責的債務引受することを条件に収益物件を贈与し、子が収益物件の収益をもって借入金を完済した後、父が死亡した場合における、子の特別受益の価額が争われた事例(東京高決令和5年12月7日、原審は単純贈与として相続開始時の収益物件の価額×100%であるとしたが、抗告審は負担付贈与であるとして相続開始時の収益物件の価額×38%であるとした。※(贈与時の収益物件の価額-贈与時の残債務の額)/贈与時の収益物件の価額=38%)が紹介され、議論した。

第151回は、2025年3月25日開催され、判例時報2611~2614号から4判例が報告された。いじめ防止対策推進法の定義する「いじめ」は広範な行為が該当するため、同法の「いじめ」に該当するからといって当然に不法行為に当たらないとして、個々の行為の違法性を吟味した事例(東京地判令和5年10月30日)、民事事件において、職場の休憩室の秘密録音が信義則に反するとして証拠排除されたが、対面で会話した相手の秘密録音は証拠採用された事例(大阪地判令和5年12月7日)、弁護士が控訴審において依頼者の意向を確認しないまま和解の意向がない旨の記載のある照会兼回答書を提出したことが委任契約上の善管注意義務違反に当たるとした事例(大阪高判令和5年5月25日)、判決により養育費支払義務を負う父は、親権者母の虐待により子が一時保護されたときは、養育費減額審判を申し立てると申立日以降の養育費支払義務が取り消されるとされた事例(東京高決令和4年12月15日)が紹介された。

第147~149回判例研究会

月1回の判例研究会の第147回は、2024年11月18日開催され、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法、フリーランス法)に関するeラーニングを受講した。

第148回は、2024年12月16日開催され、判例時報2599~2602号から4判例が報告された。抵当権の物上代位と相殺合意の優劣に関する事例(最判令和5年11月27日)、交通事故の被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の仮差押の効力が自賠責保険被害者請求権にも及ぶとされた事例(東京高判令和4年4月7日)、弁護士の依頼者に対する説明義務等の違反が争われた事例(東京地判令和5年1月13日)、ファクタリング業者の預金口座が犯罪利用預金口座等であるとして弁護士が凍結要請をしたが結果的に誤りであった件について不法行為責任が無いとされた事例(東京地判令和5年1月18日)が紹介され、議論した。

第149回は、2025年1月27日開催され、判例時報2603~2606号から4判例が報告された。犯罪被害者給付金の支給対象者の一つ「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に同性パートナーを含むとした事例(最判令和6年3月26日)、捜索差押手続中の不備により、発見された覚醒剤が犯人の所持品であると断定できなくなり、無罪とせざるを得なくなった事例(大阪地判令和5年10月13日)、仮想通貨取引による所得を婚姻費用算定における所得に含めるかどうかが議論された事例(福岡高決令和5年2月6日)、人身事故発生直後に飲酒運転発覚防止のため車両から50m離れたコンビニに行ってブレスケアを購入・服用したことで1分間を空費したことについて救護義務違反が認められなかった事例(東京高判令和5年9月28日)が紹介された(なお、2025年2月7日、最高裁にて逆転有罪となったことが報道で確認された。)。
その他、過去に取り扱ったいわゆるプレサンス事件について、報道に基づき、その後の進展状況について報告がなされた。

第146回判例研究会

月1回の判例研究会の第146回は、2024年10月25日開催され、判例時報2595~2598号から4判例が報告された。

県を相手方とする裁判において、両当事者が交互に裁判所と進行協議したところ、県と裁判所との協議内容が記載された県職員作成の報告書について、相手方当事者が県情報公開条例に基づき開示請求をした事例(仙台高判令和4年10月6日)は、当然ながら協議内容は不開示情報という結論となった。裁判所との協議の秘密厳守は、実務家としては当然の帰結であるが、法理論上どのように結論を導くかは興味深いものであった。

いわゆる親族の囲い込みがなされた高齢者について、別の親族が成年後見申立をした場合の、失敗事例(東京高決令和5年11月24日)と成功事例(東京高決令和5年3月20日)は、医療情報の取り寄せが何より重要であることを示唆するものであった。

その他、共同訴訟における訴額算定に関する最決令和5年10月19日が紹介され、皆で考え方を理解した。

第145回判例研究会

 月1回の判例研究会の第145回は、2024年9月24日開催され、判例時報2590~2593号から4判例が報告された。

 マンション共用部分の保存の瑕疵により損害を被った区分所有者が、工作物責任に基づき他の区分所有者1名と管理組合に損害賠償請求をした事例(東京地判令和4年12月27日)が紹介された。
 他の区分所有者1名に対する請求については、共用部分は区分所有者全員が占有しているので、工作物責任は区分所有者全員の不真正連帯債務となり、区分所有者各自が全額の賠償責任を負う(支払後に区分所有者間で持分に応じて求償する)のが原則である。ただし、本件では被害者が、賠償責任を負う区分所有者の一人でもあるから、他の区分所有者に対する請求は不真正連帯債務者間の求償権行使に類似するとして、持分の限度に減縮して請求が認容された。共用部分の管理は管理組合任せにすることが多いが、管理に落ち度があると区分所有者各自が巨額の責任を負いかねない。施設賠償責任への加入が重要である。
 管理組合に対する請求については、管理規約の解釈により、区分所有者全員が負担する損害賠償債務の履行権限が付与されているとして、請求が認容された。しかしながら、東京高裁において判決が変更され、管理組合に対する請求は棄却されたとのことである。いかなる理由で判決が変更されたのか、追って調査しなければならない。

 運動・言語に発達遅滞がみられたため1歳児クラスにおいて保育されていた3歳2か月の幼児に対し、保育士が、ホットドッグをちぎって食べさせたところ誤嚥し重大な後遺症が生じた事例(東京地判令和4年10月26日)では、パンを約5cm×2.3cm、ウインナーを直径約1.8cm×厚さ約0.7cmに与えたことに過失はなく、事故後の措置にも問題はないとして請求が棄却された。
 しかしながら、勉強会終了後の報道によると、東京高判令和6年9月26日にて逆転勝訴となったようである。原典が不明であるが、「ホットドッグは厚さ5センチ、直径1.8センチ程度で、小さくちぎって与えたという市側の主張を否定した」とあるので、ウインナーの厚さの事実認定が変化し、これが厚労省ガイドラインに沿った提供方法でないとされたようである。
 ガイドラインによると、ウインナーは、使用を避ける食材(プチトマト、餅、イカなど)ではなく、調理や切り方を工夫する食材に分類されており、縦半分に切って使用するとされている。家庭でも気を付けたいところである。

 そのほか、大学教員任期法により無期転換ルールが緩和される「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」の範囲について原審と異なる判断がなされた事例(大阪高判令和5年1月18日)、当事者間の合意に基づいて養育費の支払を求める場合には、民事訴訟手続によるべきとして、原審を取り消して養育費審判の申立てが却下された事例(東京高決令和5年5月25日)が紹介された。

 本日の取扱事例は、全件について高裁での逆転事例であった。第一審で不本意な判決となっても、簡単に諦めないことが重要である。