第147~149回判例研究会

月1回の判例研究会の第147回は、2024年11月18日開催され、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法、フリーランス法)に関するeラーニングを受講した。

第148回は、2024年12月16日開催され、判例時報2599~2602号から4判例が報告された。抵当権の物上代位と相殺合意の優劣に関する事例(最判令和5年11月27日)、交通事故の被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の仮差押の効力が自賠責保険被害者請求権にも及ぶとされた事例(東京高判令和4年4月7日)、弁護士の依頼者に対する説明義務等の違反が争われた事例(東京地判令和5年1月13日)、ファクタリング業者の預金口座が犯罪利用預金口座等であるとして弁護士が凍結要請をしたが結果的に誤りであった件について不法行為責任が無いとされた事例(東京地判令和5年1月18日)が紹介され、議論した。

第149回は、2025年1月27日開催され、判例時報2603~2606号から4判例が報告された。犯罪被害者給付金の支給対象者の一つ「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に同性パートナーを含むとした事例(最判令和6年3月26日)、捜索差押手続中の不備により、発見された覚醒剤が犯人の所持品であると断定できなくなり、無罪とせざるを得なくなった事例(大阪地判令和5年10月13日)、仮想通貨取引による所得を婚姻費用算定における所得に含めるかどうかが議論された事例(福岡高決令和5年2月6日)、人身事故発生直後に飲酒運転発覚防止のため車両から50m離れたコンビニに行ってブレスケアを購入・服用したことで1分間を空費したことについて救護義務違反が認められなかった事例(東京高判令和5年9月28日)が紹介された(なお、2025年2月7日、最高裁にて逆転有罪となったことが報道で確認された。)。
その他、過去に取り扱ったいわゆるプレサンス事件について、報道に基づき、その後の進展状況について報告がなされた。

第146回判例研究会

月1回の判例研究会の第146回は、2024年10月25日開催され、判例時報2595~2598号から4判例が報告された。

県を相手方とする裁判において、両当事者が交互に裁判所と進行協議したところ、県と裁判所との協議内容が記載された県職員作成の報告書について、相手方当事者が県情報公開条例に基づき開示請求をした事例(仙台高判令和4年10月6日)は、当然ながら協議内容は不開示情報という結論となった。裁判所との協議の秘密厳守は、実務家としては当然の帰結であるが、法理論上どのように結論を導くかは興味深いものであった。

いわゆる親族の囲い込みがなされた高齢者について、別の親族が成年後見申立をした場合の、失敗事例(東京高決令和5年11月24日)と成功事例(東京高決令和5年3月20日)は、医療情報の取り寄せが何より重要であることを示唆するものであった。

その他、共同訴訟における訴額算定に関する最決令和5年10月19日が紹介され、皆で考え方を理解した。

第145回判例研究会

 月1回の判例研究会の第145回は、2024年9月24日開催され、判例時報2590~2593号から4判例が報告された。

 マンション共用部分の保存の瑕疵により損害を被った区分所有者が、工作物責任に基づき他の区分所有者1名と管理組合に損害賠償請求をした事例(東京地判令和4年12月27日)が紹介された。
 他の区分所有者1名に対する請求については、共用部分は区分所有者全員が占有しているので、工作物責任は区分所有者全員の不真正連帯債務となり、区分所有者各自が全額の賠償責任を負う(支払後に区分所有者間で持分に応じて求償する)のが原則である。ただし、本件では被害者が、賠償責任を負う区分所有者の一人でもあるから、他の区分所有者に対する請求は不真正連帯債務者間の求償権行使に類似するとして、持分の限度に減縮して請求が認容された。共用部分の管理は管理組合任せにすることが多いが、管理に落ち度があると区分所有者各自が巨額の責任を負いかねない。施設賠償責任への加入が重要である。
 管理組合に対する請求については、管理規約の解釈により、区分所有者全員が負担する損害賠償債務の履行権限が付与されているとして、請求が認容された。しかしながら、東京高裁において判決が変更され、管理組合に対する請求は棄却されたとのことである。いかなる理由で判決が変更されたのか、追って調査しなければならない。

 運動・言語に発達遅滞がみられたため1歳児クラスにおいて保育されていた3歳2か月の幼児に対し、保育士が、ホットドッグをちぎって食べさせたところ誤嚥し重大な後遺症が生じた事例(東京地判令和4年10月26日)では、パンを約5cm×2.3cm、ウインナーを直径約1.8cm×厚さ約0.7cmに与えたことに過失はなく、事故後の措置にも問題はないとして請求が棄却された。
 しかしながら、勉強会終了後の報道によると、東京高判令和6年9月26日にて逆転勝訴となったようである。原典が不明であるが、「ホットドッグは厚さ5センチ、直径1.8センチ程度で、小さくちぎって与えたという市側の主張を否定した」とあるので、ウインナーの厚さの事実認定が変化し、これが厚労省ガイドラインに沿った提供方法でないとされたようである。
 ガイドラインによると、ウインナーは、使用を避ける食材(プチトマト、餅、イカなど)ではなく、調理や切り方を工夫する食材に分類されており、縦半分に切って使用するとされている。家庭でも気を付けたいところである。

 そのほか、大学教員任期法により無期転換ルールが緩和される「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」の範囲について原審と異なる判断がなされた事例(大阪高判令和5年1月18日)、当事者間の合意に基づいて養育費の支払を求める場合には、民事訴訟手続によるべきとして、原審を取り消して養育費審判の申立てが却下された事例(東京高決令和5年5月25日)が紹介された。

 本日の取扱事例は、全件について高裁での逆転事例であった。第一審で不本意な判決となっても、簡単に諦めないことが重要である。

第142~144回判例研究会

月1回の判例研究会の第142回は、2024年6月26日開催され、デジタル証拠についてe-ラーニングを受講した。ウェブページの復元、モザイクアプローチ、カスタマーバーコードなど、盛り沢山の内容であった。

第143回は、2024年7月23日開催され、判例時報2582~2585号から4判例が報告された。
プレサンス事件における文書提出命令に関する大阪地決令和5年9月19日、当番弁護要請の懈怠に関する大阪地判令和4年12月13日、死刑確定者を原告とする本人訴訟における原告の出頭に関する最決令和5年9月27日、高校の自転車部における公道走行中の自損事故で顧問の指導に過失があったとされた京都地判令和5年2月9日が紹介され、議論した。

第144回は、2024年8月29日開催され、判例時報2587~2589、2594号から4判例が報告された。
弁護士会照会に応じて診療録を提出した医療機関が、患者から守秘義務違反の損害賠償請求を受けたが、請求が棄却された事例(東京地判令和4年12月26日)については、照会を受けた団体が不当の損害を被らないためのアドバイスや、望ましい制度設計について議論した。
人傷一括払がなされた場合における被害者の加害者に対する損害賠償請求権の額から控除することができる額に関する事例(最判令和5年10月16日)については、過去の判例研究会で扱った最判令和4年3月24日も併せて、損益相殺の取り扱いについて再確認した。
教諭の小学6年生に対する感情的な指導が違法とされた事例(熊本地判令和5年2月10日)については、学校内での言動の立証困難性などについて議論した。
香川県ネット・ゲーム依存症対策条例の違憲性が争われた事例(高松地判令和4年8月30日)については、かつて学んだ著明な判例や、様々な法律構成に直面し、日頃憲法論を扱わない参加者にとって良い刺激となった。

第139~141回判例研究会

月1回の判例研究会の第139回は、2024年3月22日開催され、2022年親子法制改正についてe-ラーニングを受講した。嫡出否認等の実務上あまり取り扱わない分野であるが、基本的な民法の改正であるため重要である。

第140回は、2024年4月24日開催され、判例時報2573~2576号から4判例が報告された。
電子記録債権と転付命令に関する最決令和5年3月29日は、転付命令のリスクを思い知る一例であった。その他、破産管財人による不動産の任意売却交渉や、不動産放棄の事前通知と放棄通知が債務の承認にあたるとされた事例(最決令和5年2月1日)、SNS上でイラストレーターのトレース疑惑が発信され、原審で発信者情報開示請求が認められたが高裁で逆転した事例(知財高判令和4年10月19日)、迷惑防止条例の例示列挙型構成要件の解釈に関する事例(最決令和4年12月5日)が紹介され、議論した。

第141回は、2024年5月20日開催され、判例時報2577~2580号から4判例が報告された。
納骨堂の経営等に係る許可の取り消し訴訟において納骨堂の周辺住民の原告適格が認められた事例(最判令和5年5月9日)、統合失調症の治療のため精神科病院に任意入院者として入院した患者が無断離院をして自殺した場合に、病院の無断離院の防止策が十分に講じられていないことを患者に説明すべき義務があったとはいえず病院に責任がないとされた事例(最判令和5年1月27日)、正社員と定年後再雇用有期契約の嘱託社員との間の労働条件格差が不合理といえないとされた事例(最判令和5年7月20日)、婚姻から200日以内に出産したため嫡出推定を受けない子についてDNA鑑定をしたところ父子関係が否定されたにもかかわらず妻から夫に婚姻費用を請求したところ、妻の生活費分は信義則上認められないが養育費相当額は支払うべきとした原審判断が破棄され全額支払不要とされた事例(最決令和5年5月17日)が紹介され、議論した。