第123~124回判例研究会

月1回の判例研究会の第123回は、2022年10月28日開催され、判例時報2519~2522号から4判例が報告された。交通事故の物損賠償請求権の消滅時効に関する最判令和3年11月2日、債務の存在を争いつつ行った弁済の受領の催告を有効な弁済提供とした東京地判令和3年8月30日、音楽教室における教師と生徒のJASRAC管理楽曲の演奏が著作権侵害性に関する知財高判令和3年3月18日、親族間の土地使用貸借の終了に関する東京地裁令和2年1月16日が取り上げられ、議論した。

第124回は、2022年11月29日開催され、小規模事業者に対する無料求人広告トラブルに関するeラーニングを受講した。参加者の多くがこの種事案の取扱経験があり、検討を深めた。

第120~122回判例研究会

月1回の判例研究会の第120回は、2022年7月26日開催され、令和3年民法・不動産登記法改正について受講した。登記制度、相続制度が合理化されていくもので、大いに期待したい。

第121回は、2022年8月26日開催され、判例時報2511~2514号から4判例が報告された。会社法の株式買取請求に関する最判令和3年7月5日、担保不動産競売に関する最判令和3年6月21日、不貞行為の認定で参考になる東京地判令和3年1月27日、未成年者の特別代理人が関与した遺産分割に関する東京地裁令和2年12月25日が取り上げられ、議論した。

第122回は、2022年9月27日開催され、判例時報2515~2518号から4判例が報告された。犯罪報道で被疑者の住所の地番まで報道したことが違法なプライバシー侵害であるとした静岡地判令和3年5月7日(ただし控訴審で逆転)、婚姻費用分担において潜在的稼働能力を考慮するかに関する東京高決令和3年4月21日、年金の支給直後に債権差押がなされて取立が終わった後、実質的に差押禁止債権である年金が差し押さえられたものだとして不当利得返還を求めるなどした神戸地裁尼崎支判令和3年8月2日、面会交流に関する大阪高決令和3年8月2日が取り上げられ、議論した。

第118~119回判例研究会

月1回の判例研究会の第118回は、2022年5月30日開催され、判例時報2502~2505号から4判例が報告された。昭和34年に集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに持続感染した者が、昭和62年にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症し、平成19年にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症した場合の、不法行為の除斥期間の起算点について判断した最判令和3年4月26日が紹介された。継続的不法行為に関する議論と共に、参加者から、当県におけるB型肝炎訴訟の状況が報告された。その他、雇止めに関する東京地判令和2年10月1日、民法1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し)に関する仙台高決令和2年6月11日、なりすまし口コミの削除請求に関する大阪地判令和2年9月18日が紹介された。

第119回は、2022年6月29日開催され、判例時報2506~2509号から4判例が報告された。大規模半壊とする罹災証明書に基づき支援金が支給された後に、自治体の調査により罹災証明書が一部損壊に変更され、支給決定の取消決定が行われた事案で、授益処分の職権取消しの要件が検討された最判令和3年6月4日、懲戒解雇された労働者に対する退職金全額不支給措置が適法とされた東京高判令和3年2月24日、交通事故以外に原因が考えられない一方で、医学的な機序について必ずしも説明が十分とはいえない後遺障害に関して判断された札幌高判令和3年2月2日、破産事件の否認権行使に関する東京地判令和2年1月20日が紹介された。

東日本大震災 法律相談日誌5

2011(H23)年5月2日 法律相談第3日目

 今日は、最終日である。集合場所に6時30分に到着し、車5台ほどで列をなしてαに向かう。αは、まだ寒く、春の訪れは遅い。桜の花のつぼみは、まだ、硬い。

 一路、βの仮庁舎に向かう。βに入った。β、ここはγの近くのようだ。ここの惨状も、Zと同じだ。しかし、今日は、突風がある。いつもこうなのだろうか。砂埃が激しい。ときどき、竜巻のような渦巻く突風が自動車の前に立ち上がる。この渦の中に自動車は、走り入っていくが、自動車が持ち上げられるのではないかの気持ちがよぎる。「全員、防塵マスクを付けよう」と言う互いの言葉を待たずに、全員防塵マスクを付け出した。それほど、砂塵と荒廃した惨状であり、さながら戦場──いや、戦場は、これよりもっとひどい内容だろうと打ち消した。

 建物は、他の被災地と違い、焼けただれている。鉄骨が錆ついている。自動車も瓦礫の中で、ひっくり返って車輪部を上げている。あるいは、自動車の原形をとどめず、僅かに車輪部から自動車だろうと思える。これらの残骸は、塗装が落ち鉄板がむき出しとなって、赤錆に染まっている。他では、木材の残骸と一緒になっているが、ここでは、赤茶けた鉄骨の残骸がむき出しに転がっている。この残骸の間を進むと、突風が来る。砂埃が舞い、トタン板が飛びはね、ビニールの切れ端が舞い上がる。ときどき焼けただれ、煤にまみれた建物が連なる。テレビで見た津波襲来後の火災によるものではないかと思う。自衛隊の隊員が残骸を除去し、トラックの出入りを誘導し、軍事車両、ユンボが行き交う。戦場さながらの光景である。

 β、ここは庁舎が津波で2階まで浸水し、町長ら職員の4分の1の方々が犠牲となった。役場は、仮に設置された2階建てのプレハブ6棟だった。静岡隊は、δ小学校に設置されていたJ避難所とこの近隣の避難場所の担当となった。δ小学校に向かった。許可を得て校庭の一角に自動車を置き、J避難所に向かう。校庭では、小学生が体育の授業を受けていた。校庭の一角には、郵便局が自動車出張郵便局を配備していた。挨拶がてら、職員に郵便の利用状況を聞きながら、J避難所の場所と責任者に会うにはどこへ行けばよいかを聞いたところ、J避難所は、小学校が始まってから別の地に移ったとのことだった。場所を教えてもらうが、標識になる建物はすべて流されているので、何を基準に探していけばよいか困った。J避難所は、旧δ中体育館へ移転していた。旧δ中学校は、「45号線のδ1丁目バス停のそばにあります。」とあった。

 最後の日の昼食は、旅館へポットを返すことができない行程なので、おにぎりとなった。避難場所、旧δ中体育館は、強風が吹き荒れていた。この駐車場の車の中で食べた。

 法律相談は、いつものように被災者の足元へ行き、当方から話を聞くように進めた。被災者の方から地震保険を聞かれた。〇〇火災だと思うが、書類は全て流されて資料がない。どうしたらよいか、である。確かに、書類は流出してしまう。調べたところ、下記の通りであった。

 〇〇火災の連絡先は、被害の連絡先(24時間・365日)

 建物(地震保険)やケガ等の事故 0120-******

地震保険の契約をどの保険会社としているか不明の場合などに対応しているのは、下記であった。

 社団法人日本損害保険協会 地震保険契約会社照会センター

 (月〜金(祝日は除く)9:00〜17:00) 0120-501331

 午後2時30分、ε小学校へ向かった。K避難所には、テントが張ってあり、ここに役員らしき人達が数人見える。私は、深く頭を垂れ、見舞いを告げると共に、静岡から来た弁護士であること、事情を聞きたいこと、そして、もし希望があれば、法律相談を受けたい、との話をしたところ、「すでに弁護士が昨日来たので、いらない。そんなに入れ替わり立ち替わり来て貰わなくて良い。」とのことだった。役員らしき人達は、「そこで、聞きたいが、昨日、弁護士が来て、聞いた者が話していた。ここで、債務は免除されるので、支払わなくて良い、と言っていた。相談を受けた人は、随分喜んでいたが、私は、おかしい、と思う。」と、剣幕が厳しい。私は、「もっともです。おっしゃるとおり、原則どおり、債務は残ります。ですが、多くの被災者は、家もなくなり、債務だけが残るのでは生活ができない。私たち弁護士は、この苦境を乗り越えるには、債務は免除されるべきであり、それを法律上、制定されるよう運動する所存である、この法律はまだ制定されていない。すでに相談された弁護士も、そのように言っているものと思います。」と説明したところ、「そうだろう。それならば、納得できる。明日お願いできないでしょうか、明日であれば、相談を受ける体制ができるので、是非、そうしてほしい。」と、柔和な対応となった。残念ながら、今日までで、明日は、帰る予定なので、今日、相談に切り替えられないでしょうか。と話したが、今日は、調整がつかない、とのことで断念した。

 最後の避難所への訪問の後、T夫妻と別れた。二人は、奥さんの友人のところへ訪ねて行くとのことであった。H弁護士、N弁護士、Wさん、後藤正治の4人は、岩手県最後の宿泊であるζ市のη温泉にたどり着いた。ここまで、アクシデント、怪我もなく、無事にたどり着いたことにホッとするとともに感謝した。

 η温泉は、3つの館に別れていた。立派な旅館施設の中に湯治部も設け、併設していることに驚く。自炊部には、被災で避難されている方々がいた。旅館内で、我々がすれ違う方々に会釈をして、相手の方を優先して立ち止まっていると、我々の弁護士バッジに気がついて、話しかけてきた。ここでも、立ち姿での法律相談となった。涙一杯ためられた被災者の方の「最近、やっと涙をだせるようになりました」、と言う中で、話を伺ったが、財産のみならず、家族を失って失意の中にいる方々が負債で苦しむことを見逃すことはできない。立法で解決していかなければ、到底、対応できるものではないことを痛感した。

2011.5.2(月)後藤正治 記

第116~117回判例研究会

月1回の判例研究会の第116回は、2022年3月30日開催され、判例時報2494~2497号から4判例が報告された。不登校の高校生に対する、校則に基づく生徒指導はいずれも適法とされたが、名列表からの削除や机・椅子の撤去を行い、大阪府教育庁から指導を受けて取りやめるまで継続したのは違法とされた事例(大阪地判令和3年2月16日)、遺言公正証書作成当時の遺言能力が争われ、第一審で中等度以上のアルツハイマー型認知症であったとして遺言無効が認められたが、控訴審では遺言能力がなかったと疑わせるほどの重度のアルツハイマー型認知症であったと認めるには足りないとして、原判決を取り消した事例(広島高判令和2年9月30日)などが紹介された。

第117回は、判例時報2498~2501号から4判例が報告された。税関検査で職員が英語話者の対象者に対し、「sign, sign it, OK?」と述べて、手荷物解体検査の同意書への署名を求めたところ、対象者が「That’s not OK」と拒否したが、職員は、イギリス英語を正確に聞き取れず、語尾のOKのみ理解して口頭の承諾があったと誤解し、結局、令状を取らずに手荷物をバールで破壊したのは違法であったとされた事例(千葉地判令和2年6月19日)、4月13日に遺言書の全文・日付・氏名を自筆し、5月10日に押印した場合、5月10日に遺言書が完成したことになるため、遺言書記載の4月13日は完成日の記載としては誤りとなるとき、遺言全体が無効になると判断した原判決を取り消し、遺言を有効と判断した事例(最判令和3年1月18日)などが紹介された。