月1回の判例研究会の第156回は、2025年8月21日開催され、家庭の法と裁判48~51号から4判例が報告された。
遺言書の存在を知らず唯一の相続人として遺産の不動産を占有していた者は、相続発生から14年後に遺言書の存在が明らかとなり、受贈者の相続回復請求権が発生したとしても、取得時効により抗弁できるとした事例(東京高判令和4年7月28日)、面会交流の根拠条文として主位的に民法752条「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」を主張したが却下され、予備的な民法766条類推主張が認容された事例(東京高判令和4年3月17日)、婚姻費用分担調停の申し立ての2か月前に、生活費を振り込みます、5万円とさせてくださいという夫側の申し込みと、5万円で承諾しました、ありがとうございます、というメッセージの交換があったが、このメッセージは婚姻費用の合意が成立するとした原審を覆し、正式合意成立まで暫定的に支払われる額の提案と承諾にとどまるとして支払額を増額した事例(東京高決令和5年6月21日)、非嫡出子の相続分を半分とする民法の規定は、最高裁が平成13年7月以後は違憲無効と判示したが、平成13年2月死亡の場合も違憲無効と判断した下級審事例(那覇家審令和5年2月28日)が紹介され、議論した。
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第155回判例研究会
月1回の判例研究会の第155回は、2025年7月28日開催され、判例時報2619~2622号から4判例が報告された。
約4年半の自宅待機命令のうち4年間については社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨として慰謝料の支払を命じられたが、その後の度重なる就労継続意思確認等に一切回答しなかったことは違法な業務命令違反であり懲戒解雇を有効とした事例(東京地判令和6年4月24日)に関連して、中小企業における処遇に困る従業員への対応等について議論した。
配偶者居住権を算定した事例(福岡家決令和5年6月14日)については、いかなる場合に配偶者居住権が有効であるか検討した。
3歳2か月の児童のホットドッグ誤嚥事故に関する高裁判例(東京高判令和6年9月26日)は、2024年9月27日判例研究会で報告された地裁判例の控訴審であるが、再現実験や客観証拠の収集の重要性を確認し、弁護士会照会では過剰回答を避ける傾向にあるため質問方法の適正化が重要であることについて検討した。
離婚調停が不調となるや任意に支払っていた婚姻費用の支払を停止し、更に妻子を居住させていた夫名義のマンションについて賃料請求を開始したことで、夫が有責配偶者と認められた事例(東京高判令和4年4月28日)は、婚姻費用について意見の対立がある場合の支払方法など検討した。
第154回判例研究会
月1回の判例研究会の第154回は、2025年6月27日開催され、家庭の法と裁判53~56号から4判例が報告された。
最大決令和5年10月25日と同様に、性別変更審判を認める要件の一つである「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」の規定を違憲無効として「申立人の性別の取扱いを女から男に変更する」と決定した事例(静岡家浜松支決令和5年10月11日)は、対立当事者がなく認容の場合に上訴の仕組みがないことを確認した。
祖父母が未成年者の孫を養子とした場合、非親権者である実親は第一次的な扶養義務者ではなくなるため養育費の負担を免れるとした事例(東京高決令和5年6月13日)は、相続税対策のための養子縁組を相談された場合に、頭に入れておかなければならない事例であると議論した。
財産分与対象財産中にオーバーローン不動産がある場合の財産分与に関する事例(東京高判令和6年8月21日)について議論した結果、その不動産と被担保債務については除外して、他の財産のみを分割すると考える非通算説ではなく、不動産の価値と被担保債務を通算して考える通算説が、実務上多いことを確認した。
被相続人の兄が唯一の相続人で、兄が承認も放棄もしないまま亡くなり、兄の妻と兄の子が兄を相続したが、誰も承認も放棄もしないまま今度は兄の子がなくなり、兄の子の妻子が兄の子を相続した後、兄の子の妻子がようやく、兄の子が承継した被相続人の相続分について相続放棄をしたという事例(東京高決令和6年7月18日)を通じて、再転相続の場合の相続分の移動について再学習した。
第153回判例研究会
月1回の判例研究会の第153回は、2025年5月30日開催され、判例時報2615~2618号から4判例が報告された。
マンションの敷地の一部が崩落して通行人が巻き込まれた死亡事故について、マンション管理組合が土地工作物責任を負うと共に、マンションの管理会社及びその従業員が条理に基づき不法行為責任を負うとされた事例(横浜地判令和5年12月15日)、インターネット上に名誉感情を害する投稿をした者が、被害者に対し、慰謝料、発信者情報開示の弁護士費用、訴訟に係る弁護士費用の支払義務を負うが、刑事告訴の弁護士費用は支払義務を負わないとされた事例(名古屋地判令和5年3月30日)、放課後デイサービスを利用していた1種知的障害A判定の7歳児が人知れず建物の外に出て、ため池で溺死したことにつき、施設の過失責任を認めたうえで、逸失利益の基礎収入を全労働者の平均賃金の5割とした事例(山口地判令和5年12月20日)、18歳による現金5000円の強盗事件について逆走せず3年の少年院送致とした事例(東京家決令和6年5月16日)が紹介され、議論した。
第152回判例研究会
月1回の判例研究会の第152回は、2025年4月23日開催され、共同親権関連の法改正についてeラーニングを受講した。制度変更は多岐にわたり、親権者を定めない協議離婚、離婚後共同親権、親権者変更の要件改正、親権の共同行使が必要な事項を共同で決められないときの家庭裁判所の審判、監護の分掌、子の監護費用の先取特権、法定養育費、財産開示手続等における自動的な給与債権情報取得や債権差押命令の申立て、婚姻費用・養育費審判における収入資産情報開示命令(制裁は10万円以下の過料)、父母以外の親族と子の面会交流、親子交流の試行的実施、養子縁組・離縁と親権者変更、財産分与の除斥期間伸長、夫婦間契約取消権や精神病の離婚原因の削除が解説された。共同親権の意見が夫婦で対立する場合に、裁判所が共同親権と定めるようになるかどうかは実務の運用を注視する必要があること、共同親権の場合における学校や病院の適切な親権者対応の在り方、先取特権に基づく不意打ち的な債権差押への対抗手段などを議論した。