第159回判例研究会

月1回の判例研究会の第159回は、2025年11月25日開催され、判例時報2628~2631号から4判例が報告された。

生活保護受給中に得た給与は、生活保護費と合わせて最低限の生活を営むのに必要なものであり、実質的に生活保護費に相当するものであるから、特段の事情のない限り、民事執行法153条1項(差押禁止債権の範囲の変更)によりすべて取り消されるべきと判示した事案(大阪地決令和6年8月23日)が紹介され、債権執行全般や法定養育費等まで議論した。
マンションの59条競売訴訟の確定判決を得たとしても、競売開始決定前に被告が死亡した場合には、共同生活上の障害が解決したと考えられるので、もはや競売を申し立てることはできず、相続発生後になお共同生活上の障害が残存しているならば改めて相続人に対して59条競売訴訟をやり直す必要があるとした事案(大阪地決令和6年9月5日)が紹介され、マンション管理に係る盲点が注意喚起された。
名誉棄損のツイートがされたことを証する画像をもとに、ツイート対象者が発信者に対し損害賠償請求訴訟を提起したところ、当該画像が捏造であるとして発信者がツイート対象者及び訴訟代理人に対し反訴を提起したが、裁判所は当該画像は捏造であるが容易には見抜けないとして双方請求棄却とした事案(大阪地判令和6年8月30日)が紹介され、デジタル証拠の真実性を確認する方法を検討する等した。
依頼者本人が催告なく解除通知を送り、それを改めることなく訴訟代理人が明渡訴訟を提起し、敗訴した事案(東京地判令和6年11月28日)が紹介され、このような事案で弁護士がなすべき対応や、建物明渡請求のノウハウについて議論した。

第158回判例研究会

月1回の判例研究会の第158回は、2025年10月30日開催され、判例時報2623~2627号から4判例が報告された。

改正前相続法の遺留分減殺により金銭債権が減殺された場合において、遺留分権利者が債務者に対して直接請求するためには債務者対抗要件の具備が必要であるとした事例(東京地判令和4年12月13日)については、受遺者から対抗要件具備の協力を取り付ける必要があることとなり困難が予想される結論だが、法改正によりこのような問題は生じなくなったことを確認した。
聴覚障害を有する11歳児童の死亡事故の逸失利益の算定に関し、未成年者の基礎収入として、一般に当該未成年者の諸々の能力の高低を個別的に問うことなく全労働者平均賃金を用いる以上は、顕著な妨げとなる事由が存在する場合に限って減額可能という枠組を提示し、当該児童の死亡当時の聴覚・就労可能年齢に至った頃の聴覚の見通し・障害者法制の整備やテクノロジーの発展の見通し等を考慮して、本件では顕著な妨げとなる事由がないと判断し、基礎収入を全労働者平均賃金の85%とした原審を覆して100%まで引き上げた事例(大阪高判令和7年1月20日)については、認定の基礎となった児童の状況や社会的情勢について如何なる立証活動を行ったかを推測して議論した。
17歳の被告が、原告の運営する通販サイトから転売禁止商品である人形を1万2100円で購入し、2週間後にメルカリで4万8400円で売却したことが転売禁止特約違反であるとして違約金20万円を請求した事例(東京地判令和5年8月24日)においては、人形の購入を未成年者取消で無かったことにして転売禁止違反も無かったことにすることは認められなかった。代金僅少であり、過去に同様の売買を繰り返した経過もあるため、人形の購入は「目的を定めないで処分を許した財産(≒お小遣い)の処分」に過ぎないとされたからである。しかし、違約金条項は、不意打ち的な内容であるとして、「信義則に反して相手方の利益を一方的に害する」内容の「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項」と認めて民法548条の2第2項により合意不成立とみなされた。決済フローの途中で転売禁止及び違約金条項に関する規定を表示し、最後までスクロールして「全て読み同意する」チェックを入れない限りOKボタンを押せない仕様にしていたにもかかわらず、不意打ちと評価されたのである。転売抑止は社会的要請もあり、いかなる方法であれば転売禁止条項に実効性を持たせられるかを検討した。
契約期間を約3年間とする基本契約を締結したが、約半年後には関係悪化し、もう今後は個別契約を発注しないと通告した場合において、受託者側に不測の損害が生じたとしてもリスクヘッジ条項を盛り込んでいない以上、発注停止は違法ではないとされた事例(東京地判令和6年4月22日)が紹介され、基本契約のリーガルチェックに関する意見交換を行った。

第157回判例研究会

月1回の判例研究会の第157回は、2025年9月29日開催され、民事保全・民事執行に関するeラーニングを受講した。
網羅的な内容であり、保全執行の知識の記憶喚起に役立つものであった。
保全執行は、各地の裁判所ごとの運用が異なるため、あらかじめ調査が必要であることや、執行官のスケジュールを確認してから申立てを行う等のノウハウについても触れられており、有意義であった。

第156回判例研究会

月1回の判例研究会の第156回は、2025年8月21日開催され、家庭の法と裁判48~51号から4判例が報告された。
遺言書の存在を知らず唯一の相続人として遺産の不動産を占有していた者は、相続発生から14年後に遺言書の存在が明らかとなり、受贈者の相続回復請求権が発生したとしても、取得時効により抗弁できるとした事例(東京高判令和4年7月28日)、面会交流の根拠条文として主位的に民法752条「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」を主張したが却下され、予備的な民法766条類推主張が認容された事例(東京高判令和4年3月17日)、婚姻費用分担調停の申し立ての2か月前に、生活費を振り込みます、5万円とさせてくださいという夫側の申し込みと、5万円で承諾しました、ありがとうございます、というメッセージの交換があったが、このメッセージは婚姻費用の合意が成立するとした原審を覆し、正式合意成立まで暫定的に支払われる額の提案と承諾にとどまるとして支払額を増額した事例(東京高決令和5年6月21日)、非嫡出子の相続分を半分とする民法の規定は、最高裁が平成13年7月以後は違憲無効と判示したが、平成13年2月死亡の場合も違憲無効と判断した下級審事例(那覇家審令和5年2月28日)が紹介され、議論した。

第155回判例研究会

月1回の判例研究会の第155回は、2025年7月28日開催され、判例時報2619~2622号から4判例が報告された。
約4年半の自宅待機命令のうち4年間については社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨として慰謝料の支払を命じられたが、その後の度重なる就労継続意思確認等に一切回答しなかったことは違法な業務命令違反であり懲戒解雇を有効とした事例(東京地判令和6年4月24日)に関連して、中小企業における処遇に困る従業員への対応等について議論した。
配偶者居住権を算定した事例(福岡家決令和5年6月14日)については、いかなる場合に配偶者居住権が有効であるか検討した。
3歳2か月の児童のホットドッグ誤嚥事故に関する高裁判例(東京高判令和6年9月26日)は、2024年9月27日判例研究会で報告された地裁判例の控訴審であるが、再現実験や客観証拠の収集の重要性を確認し、弁護士会照会では過剰回答を避ける傾向にあるため質問方法の適正化が重要であることについて検討した。
離婚調停が不調となるや任意に支払っていた婚姻費用の支払を停止し、更に妻子を居住させていた夫名義のマンションについて賃料請求を開始したことで、夫が有責配偶者と認められた事例(東京高判令和4年4月28日)は、婚姻費用について意見の対立がある場合の支払方法など検討した。