第114~115回判例研究会

月1回の判例研究会の第114回は、2022年1月25日開催された。内容は、個人情報保護法改正に関するeラーニングを受講し、参加者間で協議した。情報開示請求は、請求側を代理するときもあれば、請求される側の相談を受けるときもある。個人情報保護の規律は、顧客の遵守を支援するのみならず、弁護士事務所自身が履践しなければならない。様々な角度から参考になる研修であった。

第115回は、2022年2月25日開催され、判例時報2490~2493号から4判例が報告された。このうち1件は、永代供養契約の解約に関する事例(大阪地判令和2年12月10日)である。永代供養は、実務で時折接する場面があるものの、その法的性質をじっくり検討したことはないので良い機会となった。また、親族間で深刻な対立のある場合の任意後見契約と法定後見選任の優劣に関する事例(水戸家裁令和2年3月9日)が紹介された。任意後見法10条1項「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。」の解釈が問題となったものである。昨今、後見事案の不祥事が散発しており、後見人の職務の公正への期待はいっそう高まっているため、注視すべき事案であった。

第113回判例研究会

月1回の判例研究会の第113回は、2021年12月21日開催され、判例時報2484~2487号から4判例が報告された。1件は、建築請負業者の施主に対する請負代金請求訴訟に対し、施主が瑕疵修補に代わる損害賠償請求の反訴を提起後、反訴請求債権をもって本訴請求に対する相殺をすることができるかに関する事例(最判令和2年9月11日)である。最高裁は、本件のような請負代金と瑕疵修補が対立する事件の場合は弁論の分離が許されず、反訴と相殺とで矛盾する判断が下されるおそれはないから、反訴と相殺は重複起訴禁止の規定に抵触しないとした。本件同様に、反訴や相殺を主張すべきシチュエーションは実務上散見され、研究会でも同種事案について議論された。その他、遺言書の封筒の裏面に「私が●より先に死亡した場合の遺言書」と記載された場合の取り扱いに関する東京地判令和2年7月31日、複数債権がある場合において充当指定なく一部弁済し1本の債権に法定充当されたとき債務承認による時効中断が全債権に及ぶかに関する最判令和2年12月15日、無期転換者向け就業規則を別途用意してある場合において当初からの無期労働者向け従業規則が無期転換者に適用されるかに関する大阪地判令和2年11月25日が紹介された。

第111~112回判例勉強会

月1回の判例研究会の第111回は、2021年10月29日開催され、新型コロナにまつわる労働問題に関するeラーニングを受講した。整理解雇、テレワーク、休業、健康配慮義務がテーマである。法律事務所もテレワークで業務を遂行することも行われ始めており、ある種、実践的な内容であった。

第112回は、2021年11月27日開催され、判例時報2480~2483号から4判例が報告された。1件は、実父の養育費支払義務は、未成年者の養子縁組によって無くなるが、その始期を養子縁組時である平成27年12月ではなく、実父からの養育費免除の調停申立時である令和元年5月からとして、その間3年以上の養育費720万円を返還しなくてよいとした事例である(東京高裁令和2年3月4日)。婚姻費用や養育費に関する事件は、調停申立をできる限り速やかに行うほうが無難であるが、養子縁組の事実はタイムリーに知り得ない場合もあり、悩ましいところである。その他、債権差押命令と差押禁止に関する事例(大阪高裁令和2年9月17日)、税理士の顧客に対する業務上のミスによる損害賠償責任の範囲を制限する契約条項が消費者契約法10条後段に反し無効と判断された事例(横浜地裁令和2年6月11日)、機密文書を出版社等へ漏洩したことを理由とする懲戒解雇と退職金不支給の有効性に関する事例(東京地裁令和2年1月29日)が紹介された。

第109~110回判例勉強会

月1回の判例研究会の第109回は、2021年8月30日開催され、判例時報2470~2473号から4判例が報告された。1件は、給与ファクタリングを装った出資法違反の貸金の事案(東京地判令和2年3月24日)である。これに関連して、後払い現金化についても議論となった。後払い現金化は、2021年6月16日に消費者庁から注意喚起資料が公開されている問題であり、注意を要する。
https://www.caa.go.jp/notice/entry/024625/

その他、年金の受給開始時期を遅らせた場合の婚姻費用の算定方法を明らかにした事案(東京高判令和元年12月19日)、国民健康保険税の消滅時効の中断に関する事案(最二判令和2年6月26日)、同性カップルの一人が異性と性的関係を持ったことで事実婚が破綻した場合の損害賠償請求が認められた事案(東京高判令和2年3月4日)が紹介された。

第110回は、2021年9月27日開催され、判例時報2474~2477号から4判例が報告された。1件は、ストーカー規制法における「住居等の付近において見張り」をする行為には、無断でGPS機器を取り付けて位置情報を遠隔取得する行為は含まれないとされた事案(最判令和2年7月30日)である。これに関連して、GPS機器等を用いた位置情報の無承諾取得を別途規制対象とする令和3年8月26日施行の改正ストーカー規制法が紹介された。その他、ハウスクリーニング事業の機材等販売・開業支援等を内容とするフランチャイズ契約が、特商法の業務提供誘引販売業(内職商法、サイドビジネス商法の規制)に該当するとされた事案(大津地判令和2年5月26日)、夫名義で妻が占有する夫婦共有財産の不動産について、裁判所は、離婚時に妻に分与しないものと判断した場合でも「財産の分与に関する処分の審判」に基づく不動産の引渡命令を出すことができると判断された事案(最判令和2年8月6日)、婚姻費用減額審判の第一審で減額が認められたが、減額が不十分であるとして抗告したところ、抗告審で逆に減額不要であると不利益変更された事案(大阪高決令和2年2月20日)が紹介された。

第106~108回判例勉強会

月1回の判例研究会の第106回は、2021年5月25日開催され、判例時報2460~2463号から4判例が報告された。賃貸人の死亡時における敷金返還債務の承継主体が誰であるかに関する事例(大阪高判令和元年12月26日)、再転相続時の熟慮期間の起算日が問題となった事例(東京地判令和元年9月5日)、建物明渡執行の執行費用の請求に関する事例(最三判令和2年4月7日)、認可外保育施設に預けられた9か月の幼児が熱中症で死亡した場合に、運営法人側だけでなく市の責任が認められた事例(宇都宮地判令和2年6月3日)を取り扱った。

第107回は、2021年6月28日開催され、判例時報2464~2467号から4判例が報告された。地面師詐欺の取引に誤って関与した司法書士の責任に関する事例(最判令和2年3月6日)、祖母による未成年者の監護者指定の申立てを認めた事例(大阪高判令和2年1月16日、ただし後に最決令和3年3月29日が申立権を否定)、死者に関連する情報を相続人の「自己を本人とする保有個人情報」にあたるとした事例(大阪地判令和元年6月5日)、自分に不利な意見を述べた鑑定人に対して不法行為に基づく損害賠償請求をした事例(山口地下関支判令2年5月19日)を取り扱った。

第108回は、2021年7月27日開催され、日弁連の提供する、遺留分侵害額請求訴訟に関するe-ラーニングを受講した。遺留分侵害額請求は、金銭請求に変更されただけでなく、特別受益の範囲などその他の変更点も多々あるため、初心に帰って取り組むことが肝要と思われた。