第118~119回判例研究会

月1回の判例研究会の第118回は、2022年5月30日開催され、判例時報2502~2505号から4判例が報告された。昭和34年に集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに持続感染した者が、昭和62年にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症し、平成19年にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症した場合の、不法行為の除斥期間の起算点について判断した最判令和3年4月26日が紹介された。継続的不法行為に関する議論と共に、参加者から、当県におけるB型肝炎訴訟の状況が報告された。その他、雇止めに関する東京地判令和2年10月1日、民法1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し)に関する仙台高決令和2年6月11日、なりすまし口コミの削除請求に関する大阪地判令和2年9月18日が紹介された。

第119回は、2022年6月29日開催され、判例時報2506~2509号から4判例が報告された。大規模半壊とする罹災証明書に基づき支援金が支給された後に、自治体の調査により罹災証明書が一部損壊に変更され、支給決定の取消決定が行われた事案で、授益処分の職権取消しの要件が検討された最判令和3年6月4日、懲戒解雇された労働者に対する退職金全額不支給措置が適法とされた東京高判令和3年2月24日、交通事故以外に原因が考えられない一方で、医学的な機序について必ずしも説明が十分とはいえない後遺障害に関して判断された札幌高判令和3年2月2日、破産事件の否認権行使に関する東京地判令和2年1月20日が紹介された。

第116~117回判例研究会

月1回の判例研究会の第116回は、2022年3月30日開催され、判例時報2494~2497号から4判例が報告された。不登校の高校生に対する、校則に基づく生徒指導はいずれも適法とされたが、名列表からの削除や机・椅子の撤去を行い、大阪府教育庁から指導を受けて取りやめるまで継続したのは違法とされた事例(大阪地判令和3年2月16日)、遺言公正証書作成当時の遺言能力が争われ、第一審で中等度以上のアルツハイマー型認知症であったとして遺言無効が認められたが、控訴審では遺言能力がなかったと疑わせるほどの重度のアルツハイマー型認知症であったと認めるには足りないとして、原判決を取り消した事例(広島高判令和2年9月30日)などが紹介された。

第117回は、判例時報2498~2501号から4判例が報告された。税関検査で職員が英語話者の対象者に対し、「sign, sign it, OK?」と述べて、手荷物解体検査の同意書への署名を求めたところ、対象者が「That’s not OK」と拒否したが、職員は、イギリス英語を正確に聞き取れず、語尾のOKのみ理解して口頭の承諾があったと誤解し、結局、令状を取らずに手荷物をバールで破壊したのは違法であったとされた事例(千葉地判令和2年6月19日)、4月13日に遺言書の全文・日付・氏名を自筆し、5月10日に押印した場合、5月10日に遺言書が完成したことになるため、遺言書記載の4月13日は完成日の記載としては誤りとなるとき、遺言全体が無効になると判断した原判決を取り消し、遺言を有効と判断した事例(最判令和3年1月18日)などが紹介された。

第114~115回判例研究会

月1回の判例研究会の第114回は、2022年1月25日開催された。内容は、個人情報保護法改正に関するeラーニングを受講し、参加者間で協議した。情報開示請求は、請求側を代理するときもあれば、請求される側の相談を受けるときもある。個人情報保護の規律は、顧客の遵守を支援するのみならず、弁護士事務所自身が履践しなければならない。様々な角度から参考になる研修であった。

第115回は、2022年2月25日開催され、判例時報2490~2493号から4判例が報告された。このうち1件は、永代供養契約の解約に関する事例(大阪地判令和2年12月10日)である。永代供養は、実務で時折接する場面があるものの、その法的性質をじっくり検討したことはないので良い機会となった。また、親族間で深刻な対立のある場合の任意後見契約と法定後見選任の優劣に関する事例(水戸家裁令和2年3月9日)が紹介された。任意後見法10条1項「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。」の解釈が問題となったものである。昨今、後見事案の不祥事が散発しており、後見人の職務の公正への期待はいっそう高まっているため、注視すべき事案であった。

第113回判例研究会

月1回の判例研究会の第113回は、2021年12月21日開催され、判例時報2484~2487号から4判例が報告された。1件は、建築請負業者の施主に対する請負代金請求訴訟に対し、施主が瑕疵修補に代わる損害賠償請求の反訴を提起後、反訴請求債権をもって本訴請求に対する相殺をすることができるかに関する事例(最判令和2年9月11日)である。最高裁は、本件のような請負代金と瑕疵修補が対立する事件の場合は弁論の分離が許されず、反訴と相殺とで矛盾する判断が下されるおそれはないから、反訴と相殺は重複起訴禁止の規定に抵触しないとした。本件同様に、反訴や相殺を主張すべきシチュエーションは実務上散見され、研究会でも同種事案について議論された。その他、遺言書の封筒の裏面に「私が●より先に死亡した場合の遺言書」と記載された場合の取り扱いに関する東京地判令和2年7月31日、複数債権がある場合において充当指定なく一部弁済し1本の債権に法定充当されたとき債務承認による時効中断が全債権に及ぶかに関する最判令和2年12月15日、無期転換者向け就業規則を別途用意してある場合において当初からの無期労働者向け従業規則が無期転換者に適用されるかに関する大阪地判令和2年11月25日が紹介された。

第111~112回判例勉強会

月1回の判例研究会の第111回は、2021年10月29日開催され、新型コロナにまつわる労働問題に関するeラーニングを受講した。整理解雇、テレワーク、休業、健康配慮義務がテーマである。法律事務所もテレワークで業務を遂行することも行われ始めており、ある種、実践的な内容であった。

第112回は、2021年11月27日開催され、判例時報2480~2483号から4判例が報告された。1件は、実父の養育費支払義務は、未成年者の養子縁組によって無くなるが、その始期を養子縁組時である平成27年12月ではなく、実父からの養育費免除の調停申立時である令和元年5月からとして、その間3年以上の養育費720万円を返還しなくてよいとした事例である(東京高裁令和2年3月4日)。婚姻費用や養育費に関する事件は、調停申立をできる限り速やかに行うほうが無難であるが、養子縁組の事実はタイムリーに知り得ない場合もあり、悩ましいところである。その他、債権差押命令と差押禁止に関する事例(大阪高裁令和2年9月17日)、税理士の顧客に対する業務上のミスによる損害賠償責任の範囲を制限する契約条項が消費者契約法10条後段に反し無効と判断された事例(横浜地裁令和2年6月11日)、機密文書を出版社等へ漏洩したことを理由とする懲戒解雇と退職金不支給の有効性に関する事例(東京地裁令和2年1月29日)が紹介された。