第103~105回判例研究会

月1回の判例研究会の第103回は、2021年2月26日開催され、判例時報2455~2458号から4判例が報告された。労働契約に関する事例(福岡地判令和2年3月17日)、訴訟委任の有効性が問題となった事例(大阪高判令和2年3月26日)、子の返還に関する事例(最決令和2年4月16日)、適格消費者団体による不当条項に関する事例(さいたま地判令和2年2月5日)を取り扱った。

第104回は、2021年3月19日開催され、日弁連の提供する、新型コロナウイルス問題に関する企業向け相談に関するe-ラーニングを受講した。新型コロナ以外にも通用する法的諸問題を検討する機会となった。

第105回は、2021年4月22日開催され、日弁連の提供する、民事信託(家族信託)に関するe-ラーニングを受講した。紛争予防のため、信託を活用していくべき場面が増えていくものと思われるが、様々な視点から入念に設計しなければ意に沿わない信託となるおそれがあり、注意を要する。

第102回判例研究会

月1回の判例研究会の第102回は、2021年1月27日開催され、判例時報2450~2454号から4判例が報告された。

1事例目は、被相続人の死亡を知って3か月以内に子3人が相続放棄をしようと考えたが、誤って1人だけが3人分の収入印紙を貼付して申立てを行い、3か月経過後に市の職員から各自の申立てが必要であることを教示されて残る2名が相続放棄の申述をした事例(東京高決令和1年11月25日)。原審は期間経過後の申立てであるとして不適法却下したのに対し、高裁は特別の事情があるとして市の職員の教示から3か月以内に申し立てればよいとした。本件は家裁の申立時に取下げを促されていたが、高裁で争うことを前提に申立てを完遂することも重要である。

2事例目は、長谷川式11点でグループホームに入居する87歳女性について、長女による財産管理が不適切であるとして長男が成年後見を申し立てたところ、本人が成年後見開始を拒否する直筆の手紙を裁判所に送付して調査官調査・鑑定を拒否した事例(大阪高決令和1年9月4日)。原審は診断書の信用性に疑義があるため鑑定が必要だが鑑定を実施できないため、申立てを却下したが、高裁は、診断書の疑義は誤記にすぎないと認められることや、経済的合理性のない高リスク投資を開始しており直筆の手紙も本人の意思に基づくものか疑わしいこと等を考慮し、鑑定をするまでもなく後見開始の常況にあるとした。実務では、一人の相続人に完全に囲われてしまい、診断書の取得すら覚束ないことが多々あるが、参考になるケースである。

3事例目は、民事裁判では第1回期日において答弁せず欠席した場合、訴状記載の事実は争いないものとみなして勝訴判決をすることが法律上可能であるが、被告が複数いる事件で、相被告から反論の答弁がなされているのに被告のうち1社だけ欠席した場合に、その被告についてのみ裁判分離・勝訴判決をすることが違法とされた事例(東京高判令和1年11月7日)。

4事例目は、婚費分担審判の申立後、決定前に当事者が離婚した場合に、婚費請求権が存続すると判断した事例(最決令和2年1月23日)。

第101回判例研究会

月1回の判例研究会の第101回は、2020年12月17日開催され、判例時報2445~2448号から5判例が報告された。

1事例目は、母親に観護される2名の子(9歳、6歳)と、父親の面会交流に関する事件である(大阪高決R1.11.8)。父親が女性と頻繁に連絡を取るなどしたため別居が開始したが、復縁を目指すこととなり、家族でハワイ旅行に行ったり、母親の親族の結婚式に夫婦で参列したりして、修復の兆しが見えた矢先、実は父親が別の女性と交際しており母親がその女性と偶然対面、母親が心身不調となり離婚を求めるに至った。子らは、現在も父親を慕い会いたいと思う一方、母親の心中を慮って会うことを躊躇するという忠誠葛藤に陥っていると、裁判所は認定し、裁判所が父親との面会を命ずることで、子らの心理的負担を解消しようとした。子らの意見は、前回の面会交流事案と大きく異なるが、結局は日頃の行いということか。

2事例目は、詐欺師であるとブログに記載された者が、投稿者に対し、名誉棄損であるとして、弁護士代理のもと刑事告訴、訴訟提起を行ったところ、後に真実詐欺師であったことが発覚。弁護士の代理行為が不法行為にあたり、弁護士に損害賠償責任があるかが争われた(東京地判R1.10.1)。弁護士の受任時の調査で、詐欺師と看破できなかったことに過失はないとして、弁護士に責任はないとされた。弁護士は、依頼者に対し、有利・不利を問わず事実を教えてもらいたい、そのほうが依頼者により良い善後策を提供できると伝えるが、本事案のように従って貰えないケースも時々ある。

3事例目は、大学院の学費、10年間の留学費用等が、扶養の範囲であるか、あるいは持戻免除の黙示の意思表示があったとして、特別受益と認められなかった事例(名古屋高決R1.5.17)。

4事例目は、先行遺産分割協議にて200万円と3300万円の不均衡分割に合意した後、新たな遺産が発見されて遺産分割を行う際は、先行協議は遺産分割として完結しており、その後の清算は予定されていなかったのであるから、先行協議で各自が取得した財産の価額(の不均衡)を考慮するのは相当でなく、新たな遺産は本来の相続分に応じて分割するのが相当とされた事案(大阪家審H31.3.6)。

5事例目は、湖東記念病院人工呼吸器事件の再審無罪事件(大津地判R2.3.31)。ニュース報道程度の知識しかなかったが、再審弁護人によると、違法捜査や証拠隠し、警察官が弁護人を誹謗中傷して信頼関係を破壊、大阪高裁の有罪誘導尋問など、様々な問題点があったとの報告であった。また、第一審弁護人は、ほぼ毎日接見し、接見の度に被告人は否認に転じていたこと、事故の可能性を医学的に立証しようとしていたことなど、できる限りの努力をしていたようである。同様の事件に当たった場合、弁護人として何ができるか、身につまされる思いである。

第99~100回判例研究会

月1回の判例研究会は、第99回が2020/10/27、第100回が2020/11/30に開催された。

第99回は、改正民事執行法の実務上の諸問題について、e-ラーニング研修を受講した。今回の改正は、実務家やその依頼者にとって、とりわけ財産開示手続・第三者からの情報取得手続が重要である。裁判には勝ったが回収まで至らないケースで、有効な方法であるため、参加者は熱心に手順を確認し、議論した。
なお、Zoom利用の併用は、支障なく実施できた。

第100回は、判例時報2442、2443号から4判例が報告された。
1事例目は、母親に監護される3名の子(15~10歳)と、父親との面会交流に関する事件である(東京高判R1.8.23)。父親は、子との面会時に、子の意向に反して父親の親族の集まりに参加させたり、性風俗店に通っていたこと(夫婦関係破綻の一因)の言い訳をしたり、母親の悪口を述べるなどしていたため、子が父親と面会することを強く拒絶するようになったが、父親は母親の差し金で面会拒絶するようになったと疑っていた。裁判所は、調査官が子の意向を直接確認し、直接の面会は妥当でないと判断したが、間接的な交流として、母親に対し、子の成績表や写真の送付のほか、子の電子メールのアドレスおよびLINEのIDを通知することを命じた。子らが抵抗感を感じるであろうことを十分考慮しても、関係修復のための連絡手段の利用を認める必要性は高く、それによる具体的な弊害が大きいわけでもないという理由である。別居親の側で求めうる間接交流の方法として参考になる事案であった。
2事例目は、文書提出命令に関する事例判断(大阪高決R1.7.3)
3事例目は、犯人性を争点とする間接事実型の刑事無罪事件(東京高判R2.1.23)
4事例目は、社労士が強制執行を免れる目的で設立した社労士法人につき、法人格否認の法理により社労士の2000万円の債務を社労士法人も負い、更に、社労士法人に1万円を出資して社員となった社労士の元従業員も、社労士法上の連帯責任の規定により2000万円の債務を負うとされた事案である(東京地判R1.11.27)。控訴されており、控訴審の判断にも関心を抱かざるを得ない事案である。


第96~98回判例研究会

月1回の判例研究会は、第96回が2020/8/3、第97回が2020/8/31、第98回が2020/9/28に開催された。

3回で紹介された裁判例は12件に及ぶ。契約法、不法行為法、時効問題、労働問題、医療問題、相続法、親族法など多岐にわたった。

判例研究会のZoom利用が定着してきた。現実の裁判においてもウェブ会議の活用が本格化していく最中にあり、ウェブ会議の推進はこれからも進むであろう。次回の判例研究会は、eラーニングを予定しており、これとZoom利用の併用を如何にするかが課題である。