第109~110回判例勉強会

月1回の判例研究会の第109回は、2021年8月30日開催され、判例時報2470~2473号から4判例が報告された。1件は、給与ファクタリングを装った出資法違反の貸金の事案(東京地判令和2年3月24日)である。これに関連して、後払い現金化についても議論となった。後払い現金化は、2021年6月16日に消費者庁から注意喚起資料が公開されている問題であり、注意を要する。
https://www.caa.go.jp/notice/entry/024625/

その他、年金の受給開始時期を遅らせた場合の婚姻費用の算定方法を明らかにした事案(東京高判令和元年12月19日)、国民健康保険税の消滅時効の中断に関する事案(最二判令和2年6月26日)、同性カップルの一人が異性と性的関係を持ったことで事実婚が破綻した場合の損害賠償請求が認められた事案(東京高判令和2年3月4日)が紹介された。

第110回は、2021年9月27日開催され、判例時報2474~2477号から4判例が報告された。1件は、ストーカー規制法における「住居等の付近において見張り」をする行為には、無断でGPS機器を取り付けて位置情報を遠隔取得する行為は含まれないとされた事案(最判令和2年7月30日)である。これに関連して、GPS機器等を用いた位置情報の無承諾取得を別途規制対象とする令和3年8月26日施行の改正ストーカー規制法が紹介された。その他、ハウスクリーニング事業の機材等販売・開業支援等を内容とするフランチャイズ契約が、特商法の業務提供誘引販売業(内職商法、サイドビジネス商法の規制)に該当するとされた事案(大津地判令和2年5月26日)、夫名義で妻が占有する夫婦共有財産の不動産について、裁判所は、離婚時に妻に分与しないものと判断した場合でも「財産の分与に関する処分の審判」に基づく不動産の引渡命令を出すことができると判断された事案(最判令和2年8月6日)、婚姻費用減額審判の第一審で減額が認められたが、減額が不十分であるとして抗告したところ、抗告審で逆に減額不要であると不利益変更された事案(大阪高決令和2年2月20日)が紹介された。

第106~108回判例勉強会

月1回の判例研究会の第106回は、2021年5月25日開催され、判例時報2460~2463号から4判例が報告された。賃貸人の死亡時における敷金返還債務の承継主体が誰であるかに関する事例(大阪高判令和元年12月26日)、再転相続時の熟慮期間の起算日が問題となった事例(東京地判令和元年9月5日)、建物明渡執行の執行費用の請求に関する事例(最三判令和2年4月7日)、認可外保育施設に預けられた9か月の幼児が熱中症で死亡した場合に、運営法人側だけでなく市の責任が認められた事例(宇都宮地判令和2年6月3日)を取り扱った。

第107回は、2021年6月28日開催され、判例時報2464~2467号から4判例が報告された。地面師詐欺の取引に誤って関与した司法書士の責任に関する事例(最判令和2年3月6日)、祖母による未成年者の監護者指定の申立てを認めた事例(大阪高判令和2年1月16日、ただし後に最決令和3年3月29日が申立権を否定)、死者に関連する情報を相続人の「自己を本人とする保有個人情報」にあたるとした事例(大阪地判令和元年6月5日)、自分に不利な意見を述べた鑑定人に対して不法行為に基づく損害賠償請求をした事例(山口地下関支判令2年5月19日)を取り扱った。

第108回は、2021年7月27日開催され、日弁連の提供する、遺留分侵害額請求訴訟に関するe-ラーニングを受講した。遺留分侵害額請求は、金銭請求に変更されただけでなく、特別受益の範囲などその他の変更点も多々あるため、初心に帰って取り組むことが肝要と思われた。

第103~105回判例研究会

月1回の判例研究会の第103回は、2021年2月26日開催され、判例時報2455~2458号から4判例が報告された。労働契約に関する事例(福岡地判令和2年3月17日)、訴訟委任の有効性が問題となった事例(大阪高判令和2年3月26日)、子の返還に関する事例(最決令和2年4月16日)、適格消費者団体による不当条項に関する事例(さいたま地判令和2年2月5日)を取り扱った。

第104回は、2021年3月19日開催され、日弁連の提供する、新型コロナウイルス問題に関する企業向け相談に関するe-ラーニングを受講した。新型コロナ以外にも通用する法的諸問題を検討する機会となった。

第105回は、2021年4月22日開催され、日弁連の提供する、民事信託(家族信託)に関するe-ラーニングを受講した。紛争予防のため、信託を活用していくべき場面が増えていくものと思われるが、様々な視点から入念に設計しなければ意に沿わない信託となるおそれがあり、注意を要する。

第102回判例研究会

月1回の判例研究会の第102回は、2021年1月27日開催され、判例時報2450~2454号から4判例が報告された。

1事例目は、被相続人の死亡を知って3か月以内に子3人が相続放棄をしようと考えたが、誤って1人だけが3人分の収入印紙を貼付して申立てを行い、3か月経過後に市の職員から各自の申立てが必要であることを教示されて残る2名が相続放棄の申述をした事例(東京高決令和1年11月25日)。原審は期間経過後の申立てであるとして不適法却下したのに対し、高裁は特別の事情があるとして市の職員の教示から3か月以内に申し立てればよいとした。本件は家裁の申立時に取下げを促されていたが、高裁で争うことを前提に申立てを完遂することも重要である。

2事例目は、長谷川式11点でグループホームに入居する87歳女性について、長女による財産管理が不適切であるとして長男が成年後見を申し立てたところ、本人が成年後見開始を拒否する直筆の手紙を裁判所に送付して調査官調査・鑑定を拒否した事例(大阪高決令和1年9月4日)。原審は診断書の信用性に疑義があるため鑑定が必要だが鑑定を実施できないため、申立てを却下したが、高裁は、診断書の疑義は誤記にすぎないと認められることや、経済的合理性のない高リスク投資を開始しており直筆の手紙も本人の意思に基づくものか疑わしいこと等を考慮し、鑑定をするまでもなく後見開始の常況にあるとした。実務では、一人の相続人に完全に囲われてしまい、診断書の取得すら覚束ないことが多々あるが、参考になるケースである。

3事例目は、民事裁判では第1回期日において答弁せず欠席した場合、訴状記載の事実は争いないものとみなして勝訴判決をすることが法律上可能であるが、被告が複数いる事件で、相被告から反論の答弁がなされているのに被告のうち1社だけ欠席した場合に、その被告についてのみ裁判分離・勝訴判決をすることが違法とされた事例(東京高判令和1年11月7日)。

4事例目は、婚費分担審判の申立後、決定前に当事者が離婚した場合に、婚費請求権が存続すると判断した事例(最決令和2年1月23日)。

第101回判例研究会

月1回の判例研究会の第101回は、2020年12月17日開催され、判例時報2445~2448号から5判例が報告された。

1事例目は、母親に観護される2名の子(9歳、6歳)と、父親の面会交流に関する事件である(大阪高決R1.11.8)。父親が女性と頻繁に連絡を取るなどしたため別居が開始したが、復縁を目指すこととなり、家族でハワイ旅行に行ったり、母親の親族の結婚式に夫婦で参列したりして、修復の兆しが見えた矢先、実は父親が別の女性と交際しており母親がその女性と偶然対面、母親が心身不調となり離婚を求めるに至った。子らは、現在も父親を慕い会いたいと思う一方、母親の心中を慮って会うことを躊躇するという忠誠葛藤に陥っていると、裁判所は認定し、裁判所が父親との面会を命ずることで、子らの心理的負担を解消しようとした。子らの意見は、前回の面会交流事案と大きく異なるが、結局は日頃の行いということか。

2事例目は、詐欺師であるとブログに記載された者が、投稿者に対し、名誉棄損であるとして、弁護士代理のもと刑事告訴、訴訟提起を行ったところ、後に真実詐欺師であったことが発覚。弁護士の代理行為が不法行為にあたり、弁護士に損害賠償責任があるかが争われた(東京地判R1.10.1)。弁護士の受任時の調査で、詐欺師と看破できなかったことに過失はないとして、弁護士に責任はないとされた。弁護士は、依頼者に対し、有利・不利を問わず事実を教えてもらいたい、そのほうが依頼者により良い善後策を提供できると伝えるが、本事案のように従って貰えないケースも時々ある。

3事例目は、大学院の学費、10年間の留学費用等が、扶養の範囲であるか、あるいは持戻免除の黙示の意思表示があったとして、特別受益と認められなかった事例(名古屋高決R1.5.17)。

4事例目は、先行遺産分割協議にて200万円と3300万円の不均衡分割に合意した後、新たな遺産が発見されて遺産分割を行う際は、先行協議は遺産分割として完結しており、その後の清算は予定されていなかったのであるから、先行協議で各自が取得した財産の価額(の不均衡)を考慮するのは相当でなく、新たな遺産は本来の相続分に応じて分割するのが相当とされた事案(大阪家審H31.3.6)。

5事例目は、湖東記念病院人工呼吸器事件の再審無罪事件(大津地判R2.3.31)。ニュース報道程度の知識しかなかったが、再審弁護人によると、違法捜査や証拠隠し、警察官が弁護人を誹謗中傷して信頼関係を破壊、大阪高裁の有罪誘導尋問など、様々な問題点があったとの報告であった。また、第一審弁護人は、ほぼ毎日接見し、接見の度に被告人は否認に転じていたこと、事故の可能性を医学的に立証しようとしていたことなど、できる限りの努力をしていたようである。同様の事件に当たった場合、弁護人として何ができるか、身につまされる思いである。