第101回判例研究会

月1回の判例研究会の第101回は、2020年12月17日開催され、判例時報2445~2448号から5判例が報告された。

1事例目は、母親に観護される2名の子(9歳、6歳)と、父親の面会交流に関する事件である(大阪高決R1.11.8)。父親が女性と頻繁に連絡を取るなどしたため別居が開始したが、復縁を目指すこととなり、家族でハワイ旅行に行ったり、母親の親族の結婚式に夫婦で参列したりして、修復の兆しが見えた矢先、実は父親が別の女性と交際しており母親がその女性と偶然対面、母親が心身不調となり離婚を求めるに至った。子らは、現在も父親を慕い会いたいと思う一方、母親の心中を慮って会うことを躊躇するという忠誠葛藤に陥っていると、裁判所は認定し、裁判所が父親との面会を命ずることで、子らの心理的負担を解消しようとした。子らの意見は、前回の面会交流事案と大きく異なるが、結局は日頃の行いということか。

2事例目は、詐欺師であるとブログに記載された者が、投稿者に対し、名誉棄損であるとして、弁護士代理のもと刑事告訴、訴訟提起を行ったところ、後に真実詐欺師であったことが発覚。弁護士の代理行為が不法行為にあたり、弁護士に損害賠償責任があるかが争われた(東京地判R1.10.1)。弁護士の受任時の調査で、詐欺師と看破できなかったことに過失はないとして、弁護士に責任はないとされた。弁護士は、依頼者に対し、有利・不利を問わず事実を教えてもらいたい、そのほうが依頼者により良い善後策を提供できると伝えるが、本事案のように従って貰えないケースも時々ある。

3事例目は、大学院の学費、10年間の留学費用等が、扶養の範囲であるか、あるいは持戻免除の黙示の意思表示があったとして、特別受益と認められなかった事例(名古屋高決R1.5.17)。

4事例目は、先行遺産分割協議にて200万円と3300万円の不均衡分割に合意した後、新たな遺産が発見されて遺産分割を行う際は、先行協議は遺産分割として完結しており、その後の清算は予定されていなかったのであるから、先行協議で各自が取得した財産の価額(の不均衡)を考慮するのは相当でなく、新たな遺産は本来の相続分に応じて分割するのが相当とされた事案(大阪家審H31.3.6)。

5事例目は、湖東記念病院人工呼吸器事件の再審無罪事件(大津地判R2.3.31)。ニュース報道程度の知識しかなかったが、再審弁護人によると、違法捜査や証拠隠し、警察官が弁護人を誹謗中傷して信頼関係を破壊、大阪高裁の有罪誘導尋問など、様々な問題点があったとの報告であった。また、第一審弁護人は、ほぼ毎日接見し、接見の度に被告人は否認に転じていたこと、事故の可能性を医学的に立証しようとしていたことなど、できる限りの努力をしていたようである。同様の事件に当たった場合、弁護人として何ができるか、身につまされる思いである。

第99~100回判例研究会

月1回の判例研究会は、第99回が2020/10/27、第100回が2020/11/30に開催された。

第99回は、改正民事執行法の実務上の諸問題について、e-ラーニング研修を受講した。今回の改正は、実務家やその依頼者にとって、とりわけ財産開示手続・第三者からの情報取得手続が重要である。裁判には勝ったが回収まで至らないケースで、有効な方法であるため、参加者は熱心に手順を確認し、議論した。
なお、Zoom利用の併用は、支障なく実施できた。

第100回は、判例時報2442、2443号から4判例が報告された。
1事例目は、母親に監護される3名の子(15~10歳)と、父親との面会交流に関する事件である(東京高判R1.8.23)。父親は、子との面会時に、子の意向に反して父親の親族の集まりに参加させたり、性風俗店に通っていたこと(夫婦関係破綻の一因)の言い訳をしたり、母親の悪口を述べるなどしていたため、子が父親と面会することを強く拒絶するようになったが、父親は母親の差し金で面会拒絶するようになったと疑っていた。裁判所は、調査官が子の意向を直接確認し、直接の面会は妥当でないと判断したが、間接的な交流として、母親に対し、子の成績表や写真の送付のほか、子の電子メールのアドレスおよびLINEのIDを通知することを命じた。子らが抵抗感を感じるであろうことを十分考慮しても、関係修復のための連絡手段の利用を認める必要性は高く、それによる具体的な弊害が大きいわけでもないという理由である。別居親の側で求めうる間接交流の方法として参考になる事案であった。
2事例目は、文書提出命令に関する事例判断(大阪高決R1.7.3)
3事例目は、犯人性を争点とする間接事実型の刑事無罪事件(東京高判R2.1.23)
4事例目は、社労士が強制執行を免れる目的で設立した社労士法人につき、法人格否認の法理により社労士の2000万円の債務を社労士法人も負い、更に、社労士法人に1万円を出資して社員となった社労士の元従業員も、社労士法上の連帯責任の規定により2000万円の債務を負うとされた事案である(東京地判R1.11.27)。控訴されており、控訴審の判断にも関心を抱かざるを得ない事案である。


第96~98回判例研究会

月1回の判例研究会は、第96回が2020/8/3、第97回が2020/8/31、第98回が2020/9/28に開催された。

3回で紹介された裁判例は12件に及ぶ。契約法、不法行為法、時効問題、労働問題、医療問題、相続法、親族法など多岐にわたった。

判例研究会のZoom利用が定着してきた。現実の裁判においてもウェブ会議の活用が本格化していく最中にあり、ウェブ会議の推進はこれからも進むであろう。次回の判例研究会は、eラーニングを予定しており、これとZoom利用の併用を如何にするかが課題である。

第95回判例研究会

 第95回の最新判例研究会(判例時報2423-2426)は、2020/6/26、久々の開催となった。新型コロナウイルスの影響で、3、4、5月の判例研究会は中止となっていたが、緊急事態宣言も解除され、まだ、予断を許さない状態であるので、ズームによる参加を受けての開催となった。

 第1例 懲戒解雇無効確認等請求事件の被告会社の申請した従業員に対する証人尋問において、被雇用者の代理人弁護士のした反対尋問における発言が当該証人の名誉を毀損すると争われた事例において、第1審では否定、控訴審で100万円を認容した事例(東京高判H30.10.18)。熾烈な訴訟を展開していく過程において、尋問がエキサイトする場面がある。当事者以上に代理人が過激になることを戒められた事例である。

 第2例 18歳前後の遊び仲間の少年4人のうち1人が、他の3人の悪ふざけで琵琶湖のヨットハーバーの突堤から湖水に突き落とされて溺死した事例。前記3人の共同不法行為責任が認められたが、同人らの親権者に対する民法709条の不法行為責任が否定された事例(大津地判H31.3.14)。中学生、高校生の親権者に対する請求事例において、どのような事実があれば認められるか、具体的事案をとおして判例が積み上げられていくので、参考になる判例である。

 第3例 成年後見人が被後見人の財産を不正に流出させた事案に関し、家事審判官には選任及び監督権の行使または不行使につき国家賠償上の違法はないとされた事例(東京地判H30.5.18判決)。本事例は、後見人が81歳の時に選任され、被後見人には多額の財産があったこと、使途不明金も多額であった。選任及び選任後の過程において、相当問題がある事例なので、家事審判官に対し、責任を認めても良いではないかの疑問が残る事例であり、翻って、弁護士が近時、後見監督人となることも多く、後見人に不正行為があり、これを看過した場合、責任を負う場合がでる。自らが不正行為をしなくても、監督責任を負うことには、難しい問題を孕むものとの意見交換になった。

 第4例 有期契約労働者と無期契約労働者との労働契約の相違について、年末年始勤務手当、住居手当、夏季冬季休暇に関する相違は、不合理とされた事例(東京高判H30.12.13)を検討し、同一労働同一賃金につき議論した。

第93回判例研究会

月1回の判例研究会第93回は、2019/12/23に開催、「証拠の収集と効果的な提出~損害賠償請求を中心に~」のeラーニングで、プロジェクターを使用した講演の受講となった。終了後は、証拠の収集とその提出につき意見交換を行った。
第94回は、2020/1/24に開催、判例時報2419~2422号から4判例が報告された。うち1件は、病院に入院中の患者が、病室において、何者かにより、カニューレにティッシュペーパーを詰められ、心肺停止となって発見された事故である。地裁において、「加害の故意を持って本件行為を行った」との請求が棄却されたが、高裁において「看護師ないしは医療従事者が本件カニューレ・周囲の汚染を防止する等の目的でティッシュペーパーを使用した後、漫然とこれを除去することを失念して放置した過失による不法行為」の主張に変更され、これが認容されたものである(大阪高裁H30.9.28)。故意行為から過失行為に高裁段階で請求原因の変更を行ったことの重要性を改めて認識したことなどが議論となった。別の1件は、夫婦の一方が、配偶者の不貞相手に対し、不貞行為から受けた精神的損害ではなく(時効成立のため)、4年後に離婚したことの精神的損害について慰謝料を請求した事案である。地裁、高裁においては、Xの請求を一部認容したが、最高裁は、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるとして原判決を破棄、請求を棄却した(最判H31.2.19)。研究会においては、さらに、離婚案件の慰謝料の相場が低下傾向にあるのではないかという肌感覚について議論された。