月1回の判例研究会は、2019/7/23で第88回となる。判例時報2400~2403号から4判例がレポートされた。
1事例目は、郵便関連業務に従事する期間雇用社員について、満65歳に達した日以後は労働契約を更新しない旨の就業規則の定めが労働契約法7条にいう合理的な労働条件を定めるものである等と判示(最判H30.9.14)。
2事例目は、73歳の高齢の被告人が普通乗用自動車(軽四輪)を運転中、宮崎市中心部の多数の車が往来する道路の歩道上を670mに渡って暴走して通行人6名に衝突させて死傷させた刑事事案である。この事故は、マスコミでも多く取り上げられたものであるが、検察側提出の「てんかんが事故原因」という鑑定意見が排斥され、認知症による事故であることが否定できないと判断し(宮崎地判H30.1.19)、注目された事例として報告された。
3事例目は、Aは、自動車購入にあたり自己名義では生活保護受給ができなくなると考え、弟Yに名義貸与を依頼して弟Yは承諾した。Aは、これにより自動車を購入したところ、事故を起こした。Aは、任意保険には未加入だったので、被害者XはYに対して、Yは自賠法3条の運行供用者に当たるとして請求。岡山地裁は、これを認めたが、広島高裁では認めなかった。最高裁は、広島高裁の判断を破棄して、差し戻した(最判H30.12.17)。逆転、逆転の判断となったが、研究会では、広島高裁の判決は、バランスに欠ける判断との意見で一致した。
4事例目は、共同相続人間においてなされた無償の相続分譲渡が民法903条1項で規定する贈与に当たるか、いう問題である。この事案に対して、高裁レベルでは、肯定説と否定説とがあった。否定説は、本事例の原審東京高判H29.6.22であり、肯定説は、別の高裁民事部(東京高判H29.7.6)などであった。このため最高裁判断が待たれていたところ、最判H30.10.19は、肯定する立場となった。相続における公平な配分を考えると、正当な判断である。なお、研究会では、贈与税の取り扱いは変わるだろうかとの質問がでた。この点については、遺産分割協議において、遺産を取得しない者がいる事例との対比、民法903条1項における特別受益としての贈与と民法549条における贈与とは、同一ではない、ことを理由として贈与税は課税されないではないか、の意見が多かった。
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第87回判例研究会
月1回、外部弁護士を含め判例研究会を行っている。2019/6/24で第87回となる。判例時報2396~2399号から4判例がレポートされた。内1件は、兄妹間の争いであり、老人ホームに入居した両親と妹が面会をするのを兄が妨害することについて、被保全権利を「両親に面会する権利」として、妹が兄と老人ホームに対し妨害禁止仮処分を申立て、これが認められた事例(横浜地決H30.7.20)であった。ほかにも、認知症患者が行った低廉な任意売却について暴利行為による契約無効を主張して認められた事例(東京高判H30.3.15)など法的構成が参考となった。これらの判例につき、メンバー間で活発な意見交換がなされた。