ゴルフを一生懸命やるが、なかなか上手くいかない。いろいろ言われても、身体が付いていかない。スイングの際、「頭が上下している。左右に振れる。」と指摘され、これを意識して動かなくなった。次の課題に移ると、前に言われたことがおろそかになっている。
「ゴルフクラブを振るときに、ボールの位置にインパクトを持っていっても駄目だ。ボールの位置が時計の6時の位置にあるとすれば、インパクトは、8時のところ、あるいは9時のところにある。素振りで、クラブを振ったとき、ビュン、ビュンと言う風を切る音が左側で聞こえなければいけないんだ。」こう言われた。プロではないが、ゴルフの知人であり、ハンディ10くらいの方だ。私からすれば、見上げるような人になる。
『どういうことだろうか。ボールが、6時の位置にある以上、ボールの位置が最大の力の入れどころではないか。』
クラブを振り、音を確かめる。確かに、音は、振り方で、ビュン、ビュンと言う音が左、あるいは、右から聞こえる。練習場で8時、9時のインパクトで打ってみる。試しても、簡単に実現できない。意味も考えてみた。この意見が理解でき、身体に体感できるようになったのは、言われて半年も経ってからである。これを機に飛距離が伸びた。
ギターの先生が言う。「ギターの弦を急ぎ弾いても良い音は出ません。私は、ゴルフをやりませんが、プロゴルファーを見ていると、スイングは、ゆっくりです。これで、飛ぶのだろうか、と思うようにクラブを振っていますが、良く飛んでいる。ギターもゴルフも同じなんです。ギターの音もゴルフボールと同じで、音を遠くまで飛ばすには、急いで弾いてはいけない。弦のインパクトの位置は、弾こうとする弦にあるのではなく、弦を過ぎたところにあるのです。弦を弾くまではゆっくり、そして、しっかり弦を捉えて振り切るんです。指は、弦を過ぎた3・4弦先、指がまでこれ以上行かないところまで、しっかり抜くことです。これで、音が遠くまで、飛ぶのです」
『どういうことか? ギターのレッスンで、ゴルフボールを打つクラブの話しとは何か?』
すでに、ゴルフクラブを振ることで、ゴルフのインパクトの位置を随分考え、クラブを振ってきたから理解は早い。ギターの先生の意味は分かる。しかし、ゴルフとギターが同一で、弦を弾くことは、ゆっくりで良く、インパクトが弦を過ぎたところにあると言うことは、なかなか実感できない。
毎日、「そうかなあ」、と考える。次第に、「そうだなあ」、と思うようになる。こうして理由が頭に入るのに、3ヶ月くらいはかかった。しかし、指は、理解したほど、簡単に動いてくれない。
水泳を1週間に一度、岩崎恭子ちゃんを輩出した沼津スポーツクラブに通い、コーチにレッスンを受けている。クロールだけに専念し、5年目に入った。2ビートでキックし、クイックターン1000mを目指しているが、容易に実現しない。2ビートというのは、右手を1回、回すときに右足を1回キックし、左手を1回、回すときに左足を1回キックする泳法である。ここでも、クロールのインパクトの位置は、何処か、考える。腕の回転のすべてに力を入れるのではなく、どこへ力を入れ、どこを脱力するのか、である。
水泳の選手の話をテレビで見ていたところ、ゴールの位置は、タッチするプールサイドにあるのではなく、もっと遠くにある、とのことだ。最後のインパクトの位置をプールサイドに置くと、もうゴールだ、ということで、失速してしまうというのだ。水泳では、腕を回転する場面とゴールの場面で、インパクトの位置を2つ考えることになる。
ボクシングのセコンドをやっている友人に聞いてみた。
『ボクシングで、相手の顔面にパンチを加える際のインパクトは、何処にあるの?顔面自体にあるの?』
彼は、「顔面の後ろ、顔面を貫くように、打つんだ。」、という。インパクトの位置は、通常の思う顔面より奥にあった。野球のバッター、テニスプレイヤー、ピアノの奏者、みなインパクトの位置は、私の思うところに、持っていないだろう。
ところで、人生のインパクトは、どこにあるんだろうか。インパクトの位置がこれほど思っていた場所と現実とが違っていると、考えざるをえない。人生の場合、エネルギーをかける位置は、仕事だ。しかし、仕事は、ただ一生懸命やればいいのだろうか。人生の音や人生のボールを遠くへ飛ばすことは、がむしゃらに仕事をやることで実現するのだろうか。これは、ゴルフで、気持だけは遠くへ飛ばそうと、クラブを力一杯、振り回しているのと同じではないか。
仕事人間が家に帰る時間は、夜の11時、12時だ。家は、寝るだけの場所となる。そして、朝、早く一人で食事をして会社へ向かう。これは、やむを得ない道である。しかし、子供たちと話す時間もなく、子供たちは大きくなる。たまに会うと、「勉強してるか。」と聞くことになり、親子との距離が遠くなる。子供からの抵抗を受けると、「自分は、何のために仕事をしているのだろうか。子供のために生きているのに、情けなくなる。」こういう企業戦士の悲哀を聞く。
人生のインパクトの位置は、何処にあるのだろうか。仕事だけで良いのか。心だけではなく、時間の過ごし方を家庭、そして、子供たちの成長へ移動させることが必要だろう。この方が人生の飛距離が伸びることになるのではないか。
「いや、違うよ。」
「インパクトの位置は、6時の位置を過ぎた8時、9時にある。そうすると、仕事の場合、夜の付き合い、一杯。ここがインパクトの位置だ。これで仕事の飛距離が伸びるというもんだ。」
飲み助の声がする。
2012.06.12(火) 後藤正治記