第131~132回判例研究会

月1回の判例研究会の第131回は、2023年7月25日開催され、判例時報2547~2550号から4判例が報告された。
親子関係不存在請求訴訟は、親又は子が他方を相手取って提起するのが原則であるところ、妻子の無い方の遺産分割に際して、被相続人の兄の子である代襲相続人が、共同相続人である被相続人の弟は実は血の繋がりがなく相続権を有しないことを証するため、親子関係不存在確認請求をすることについて、これをできないとした原審を破棄した事例(最判令和4年6月24日)、パワハラ等を行った消防職員に対する分限免職処分を違法とした原審を破棄した事例(最判令和4年9月13日)、騙取金によって弁済を受けた者は、悪意重過失の場合には被害者に対し不当利得返還義務を負うところ、騙取金の入った預金債権に対し転付命令を得た者も、同様の理解のもと不当利得返還義務を負うとされた東京地判令和4年2月14日、他車運転危険補償特約の射程に関する東京高判令和4年10月13日が紹介され、議論した。

第132回は、2023年8月31日開催され、判例時報2551~2552号から2判例が報告された。
財産開示手続に関する最決令和4年10月6日を題材に、民事執行法の条文処理の再確認を行うとともに、改正された財産開示手続の利用実態について議論した。また、妻が離婚届を書いて夫が預かり、その3日後に夫が役場に提出したところ、提出時には妻が離婚意思を欠いていたので離婚は無効であり、夫は妻の真意を確認することなくその届出をした過失により不法行為が成立するとされた事例(東京地判令和4年3月28日)が紹介され、妻側、夫側の立場から弁護士はどのように支援すべきか議論した。

第129~130回判例研究会

月1回の判例研究会の第129回は、2023年5月31日開催され、判例時報2538~2541号から4判例が報告された。第三者委員会の委員を担当した弁護士の利益相反に関する大阪高決令和3年12月22日、事業者向けファクタリングが実質的に高利息の貸金であるとの主張が否定された東京地判令和3年12月25日、ハンストをしてメディアに紹介されたフランス人男性を被告とする離婚等請求事件の東京家判令和4年7月7日、自衛官の自殺について職場の安全配慮義務違反が認められた熊本地判令和4年1月19日が取り上げられ、議論した。

第130回は、2023年6月27日開催され、判例時報2542~2546号から4判例が報告された。医療過誤があった事案で、医師が死亡診断書の記載を矮小化し、異常市の届出をせず、病院が医療法上の医療事故として取り扱わなかったことが遺族の権利利益を違法に侵害したとはいえないとした大阪地判令和4年4月15日、海外在住の元夫のもとで1年のうち相当期間が看護される約定で離婚したが、元妻が医師の診断書等を根拠に子供が元夫を訪問・滞在するのを阻止したことが違法とされた東京地判令和3年11月30日、国が津波による原子力発電所の事故を防ぐために規制権限を行使しなかったことが違法という主張が排斥された最判令和4年6月17日が取り上げられ、議論した。

第128回判例研究会

月1回の判例研究会の第128回は、2023年4月25日開催され、債権回収の実践方法に関するeラーニングを受講した。

講師の経験に基づく、情報収集上の工夫が共有される内容で、大変有益なものであった。その他、他の債権者の預金差押えを察知した場合の対応、動産執行時の有益な活用、23条照会の回答の読み取り方、どの機関がどの情報を保持しているかを考えること等も紹介された。

大部にわたる内容であったため、参加者間で議論を交わす時間が余り取れなかったことが残念であった。

第127回判例研究会

月1回の判例研究会の第127回は、2023年3月29日開催され、判例時報2534~2537号から4判例が報告された。

町内会は、法人格を持たないため所有権を直接有することはできず、構成員全員に帰属し(総有)、登記が必要な場合は、理事などの個人名で登記する運用である。しかるに、町内会が共有持分権(所有権)を直接有することの確認を求める訴訟が提起された。これを審理した高等裁判所が、構成員全員に総有的に帰属することの確認を求める趣旨に出るものであるかの釈明を求めることなく、町内会は共有持分権の主体たり得ないとして棄却したのに対し、最高裁が、高等裁判所の釈明義務違反を理由に審理の差し戻しを命じた事例(最判令和4年4月12日)を取り扱った。原告・被告の立場となる我々としては、主張・反論の問題点、漏れについて逐一点検することが肝要であると考えさせられた。

祖父母が面会交流審判を申し立てることは許されないと判断された事例(最判令和3年3月29日)については、祖父母は家事事件手続法244条の家事調停を申し立てることができることが指摘されているが、制度として十分とはいえず、立法的な解決が期待される。

亡くなった被相続人が掛けていた生命保険の死亡保険金は、受取人の固有財産となり遺産に含まれないのが原則であるが、状況によっては特別受益に準じた持ち戻しの対象となるとされており、これを否定した事例(広島高判令和4年2月25日)が紹介され、いかなる場合に持ち戻しの可能性が出てくるかを皆で議論した。

その他、人身傷害保険や自賠責保険の代位に関する最判令和4年3月24日が紹介され、結論を把握しておき、交通事故実務で見落としをしないよう努めることとした。

第126回判例研究会

月1回の判例研究会の第126回は、2023年2月27日開催され、判例時報2529~2533号から4判例が報告された。

A罪とB罪が科刑上一罪の関係にある場合においては、刑法54条により「最も重い罪」により処断されるところ、A罪もB罪も懲役刑と罰金刑を選択でき、かつ、懲役刑の長期はA罪>B罪であり、罰金刑の多額はA罪<B罪であるときに、A罪とB罪はどちらが「重い罪」なのか、罰金刑の多額はB罪によることができるのかが判断された最一判令和2年10月1日については、日頃意識しない条文を再確認する機会を持つこととなった。

負担付相続させる遺言も、負担付遺贈と同様に、相続財産の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負うとされた大阪地判令和3年9月29日については、負担のバリエーションとして個人不動産の譲渡を遺言書に記載するとどうなるか等が議論された。

離婚慰謝料は、離婚の成立時に遅滞に陥ると判断された最二判令和4年1月28日については、浪費や風俗通いが離婚慰謝料にどの程度寄与するか、不貞事例の離婚慰謝料の相場観などが議論された。

財産評価基本通達に基づく建物の相続税評価額が、時価より大幅に低いことや、借金は相続税の課税価格に含まれる(控除される)ことを利用して、相続税対策として、借金してマンションを購入し、これにより課税価格の合計額を6億円から3000万円弱に下落させ、その3年後に死亡した場合において、国が、相続人に対し、特別に、マンションについて財産評価基本通達によらず鑑定による時価評価をして課税価格を引き上げたことの有効性が争われた最二判令和4年1月28日については、いかなる事情があると国は財産評価基本通達を超える課税に踏み切るか、弁護士が相続税対策のアドバイスにどの程度踏み込むか等が議論された。