第128回判例研究会

月1回の判例研究会の第128回は、2023年4月25日開催され、債権回収の実践方法に関するeラーニングを受講した。

講師の経験に基づく、情報収集上の工夫が共有される内容で、大変有益なものであった。その他、他の債権者の預金差押えを察知した場合の対応、動産執行時の有益な活用、23条照会の回答の読み取り方、どの機関がどの情報を保持しているかを考えること等も紹介された。

大部にわたる内容であったため、参加者間で議論を交わす時間が余り取れなかったことが残念であった。

第127回判例研究会

月1回の判例研究会の第127回は、2023年3月29日開催され、判例時報2534~2537号から4判例が報告された。

町内会は、法人格を持たないため所有権を直接有することはできず、構成員全員に帰属し(総有)、登記が必要な場合は、理事などの個人名で登記する運用である。しかるに、町内会が共有持分権(所有権)を直接有することの確認を求める訴訟が提起された。これを審理した高等裁判所が、構成員全員に総有的に帰属することの確認を求める趣旨に出るものであるかの釈明を求めることなく、町内会は共有持分権の主体たり得ないとして棄却したのに対し、最高裁が、高等裁判所の釈明義務違反を理由に審理の差し戻しを命じた事例(最判令和4年4月12日)を取り扱った。原告・被告の立場となる我々としては、主張・反論の問題点、漏れについて逐一点検することが肝要であると考えさせられた。

祖父母が面会交流審判を申し立てることは許されないと判断された事例(最判令和3年3月29日)については、祖父母は家事事件手続法244条の家事調停を申し立てることができることが指摘されているが、制度として十分とはいえず、立法的な解決が期待される。

亡くなった被相続人が掛けていた生命保険の死亡保険金は、受取人の固有財産となり遺産に含まれないのが原則であるが、状況によっては特別受益に準じた持ち戻しの対象となるとされており、これを否定した事例(広島高判令和4年2月25日)が紹介され、いかなる場合に持ち戻しの可能性が出てくるかを皆で議論した。

その他、人身傷害保険や自賠責保険の代位に関する最判令和4年3月24日が紹介され、結論を把握しておき、交通事故実務で見落としをしないよう努めることとした。

第126回判例研究会

月1回の判例研究会の第126回は、2023年2月27日開催され、判例時報2529~2533号から4判例が報告された。

A罪とB罪が科刑上一罪の関係にある場合においては、刑法54条により「最も重い罪」により処断されるところ、A罪もB罪も懲役刑と罰金刑を選択でき、かつ、懲役刑の長期はA罪>B罪であり、罰金刑の多額はA罪<B罪であるときに、A罪とB罪はどちらが「重い罪」なのか、罰金刑の多額はB罪によることができるのかが判断された最一判令和2年10月1日については、日頃意識しない条文を再確認する機会を持つこととなった。

負担付相続させる遺言も、負担付遺贈と同様に、相続財産の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負うとされた大阪地判令和3年9月29日については、負担のバリエーションとして個人不動産の譲渡を遺言書に記載するとどうなるか等が議論された。

離婚慰謝料は、離婚の成立時に遅滞に陥ると判断された最二判令和4年1月28日については、浪費や風俗通いが離婚慰謝料にどの程度寄与するか、不貞事例の離婚慰謝料の相場観などが議論された。

財産評価基本通達に基づく建物の相続税評価額が、時価より大幅に低いことや、借金は相続税の課税価格に含まれる(控除される)ことを利用して、相続税対策として、借金してマンションを購入し、これにより課税価格の合計額を6億円から3000万円弱に下落させ、その3年後に死亡した場合において、国が、相続人に対し、特別に、マンションについて財産評価基本通達によらず鑑定による時価評価をして課税価格を引き上げたことの有効性が争われた最二判令和4年1月28日については、いかなる事情があると国は財産評価基本通達を超える課税に踏み切るか、弁護士が相続税対策のアドバイスにどの程度踏み込むか等が議論された。

東日本大震災 法律相談日誌6

被災地 法律相談報告

平成23年6月18日

 4月29日から5月3日まで、弁護士会の活動とは別に、被災地の皆さまへの法律問題調査と法律相談で行ってきました。体力が持つだろうか、との不安を抱えながら、3市町村の避難所計10箇所ほどを訪問してきました。

 津波の被害は、このように凄いものか、

 町すべてが根こそぎ奪われた惨状は、傷ましいものでした。

 涙一杯ためられた被災者の方の相談を受け「最近、やっと涙をだせるようになりました」、と言う中で、話を伺いましたが、立法で解決していかなければ、到底、対応できるものではないことを痛感しました。

 我々は何ができるか、何をすべきかを問われた毎日でした。

  1.  避難場所には、老人、身障者、心に深く傷を負って精神的に立ち上がれない方、その他の事情で避難場所にいる方など限定されているように感じました。経済的活動の中心になる方、青年、壮年の方々は、仕事探しや仕事に行き、生きるために昼間出かけられており、昼間避難場所に行っても、弁護士の法律相談は空回りの印象でした。
     某市では、避難場所の方に夕食を勧められ、一緒に食事をして、食事後に、7時まで、話を聞きましたが、地方では、弁護士に相談するというのは、敷居が高く、我々が、席に行く、一緒に食事するなど、心の壁を取り払わないとなかなか、相談は、多くない状況です。相談時間は、夕方、または、夜間、青年、壮年の方々が帰ってきた後に話を聞いた方が適切な弁護士としての役割を果たせるものと感じました。
  2.  また、椅子と机を用意して、相談される方を待つというのでは、なかなか相談しにくい。地方の方々には、弁護士には縁遠い存在です。布団や僅かな生活用品が置かれているスペースまで、出向き、相談を受ける気持が必要です。被害者の方の前に正座してお見舞いを告げ、被災状況を聞き、給付金の内容と手続き、そして、相談があれば、相談を受けます、と話すことが大切、と思います。
  3.  通常の法律相談では、相談者が法律相談案件を抱えていることを意識して、これを相談し、我々が応じますが、ここでは違います。被災者は、どうしていいかわからない、聞くことがわからない。どんな法律問題を抱えているかも分からない失意の状態です。
     我々は、見舞いを述べ、静岡でも東海大震災の恐れを告げられて35年も経つことを話し、ご家族や財産の安否を聞いていく中で、我々が、ここに法的問題がある、アドバイスをするところはここにあると考え、弁護士として話をしていく考えと態度が必要です。被災者の方が抱えている問題を一緒に探して見つけていく、というふうに、通常の法律相談と全く異なる性格のものであることを認識してほしいと思います。

1、心のケア

2、災害対策法の内容と手続き

3、立法問題である債権放棄、再生と換地処分

4、具体的な法律問題

でした。

2011.6.18(土)後藤正治 記

第125回判例研究会

 月1回の判例研究会の第125回は、2023年1月31日開催され、判例時報2523~2526号から4判例が報告された。
 フリーマーケットサイトで他のブランド名をハッシュタグに掲載することが商標権侵害に当たるとされた大阪地判令和3年9月27日に関しては、商標の普通名称化などまで含めて議論された。
 性同一性障害特例法2条の定める性同一性障害者には該当するが、3条の定める性別取扱変更審判の要件のうち性別適合手術のみ行っていない元男性が、職場で女性用トイレの使用制限を受けたことが第一審で違法、控訴審で合法とされた東京高判令和3年5月27日に関しては、多目的トイレの活用が現実的ではないかという意見のほか、中小企業における性同一性障害者の取り扱い、トイレに関する労働安全衛生規則の改正などについても議論した。
 DV加害者等が被害者の住民票等を取得することを禁ずる内容の、住民基本台帳事務における支援措置の延長申出が、DV加害者に対する不法行為となった名古屋高判令和3年4月22日については、参加者から、全くDVを行っていないと主張する者について支援措置が取られているケースが紹介された。
 給与ファクタリング取引が実質的には暴利の金銭消費貸借契約であり、不法原因給付であるとされた東京地判令和3年1月26日に関しては、事業者の売掛金のファクタリング取引が同じ枠組みで制限を受けることがあり得るか等が議論された。